『みちていく』竹内里紗監督インタビュー

date : 2015/06/26

昨年の第15回TAMA NEW WAVEでグランプリを受賞した『みちていく』。陸上部の女子高生の思春期特有の心の揺れが瑞々しく描き出された本作品は、会場の観客から熱い支持を受けました。弱冠23歳の竹内里紗監督に、本作の成り立ちから今後の展望までお話を伺いました。

聞き手(実行委員:奥住・矢部・佐藤)

『桐島』で描かれていなかった人たちを題材にやりたいという気持ちがありました。

——— 本作のアイデアはどのように生まれたのですか?

竹内:高校生の話を書こうと思ったときに、主役の二人(飛田桃子、山田由梨)に「高校生のときに一番印象的だった出来事は何?」と聞いて考えました。飛田は水泳部だったのですが、途中で選手からマネージャーに変わったらしいんですよ。私も高二のときに部活を途中で辞めてるんですけど…そういうときのことって印象に残るよねって、結構二人で共感し合って。それで題材として辞めるときの気持ちを扱うのではなくて、辞めるということ自体をどちらかの主人公に設定して描こうと考えました。

——— 本作を作るにあたっては、キャストが先に決まってたんですか?

竹内:飛田と山田と制作するというのが先に決まっていました。なので二人が一番魅力的になるようなキャラ設定にしようと決めて、最初は家族ものにしようと姉妹の設定で書き始めたんですが、どうも姉妹には見えないと思って書き直しました。二人とも友達で色々知ってるので、やっぱり彼女たちをちゃんと見て書いた方がいいと思いまして、先ほど話したような二人の体験談を聞くことになりました。また、飛田は体つきとか不思議な存在感がありますし、山田は正統派の美少女で演技が上手なのでそこを活かしたいと思いました。

——— お二人とも大学の同級生なんですか?

竹内:そうですね。

——— 本作を作る前に二人と一緒に何本か作品を撮られてたんですか?

竹内:山田が主役で二本撮りました。飛田は、一緒に制作するときはスタッフで衣装をやってたんですけど、私が助監督で参加した『くじらのまち』(2012/監督:鶴岡慧子)というPFFアワード2012(以下「PFF」)でグランプリを撮った作品で主役をやりまして。前から飛田は役者をやればいいのになって思っていたときに、その作品があって、私もいつか一緒にやってみたいなと思っていました。でも飛田と山田を二人とも出演させるというのが結構大変で…二人とも魅力的な女の子だからどうしよう?って。どちらを主人公にするかとかもかなり悩みました。山田は他の友達の映画では軽い女の役を演じていたのですが、私はそうじゃない方がいいんじゃないかと思って、それまでの私の作品ではシリアスな役をやってもらってました。でも過剰にシリアスというか、どん底のトラウマを背負ったような感じの役で少し違和感もあったので、本作では少し明るめの設定にしました。

——— 彼女はとても目が印象的ですよね。

竹内:彼女は、細かい演技をすごいしてくれるんですよね。飛田の方は、あんまり細かい演技はしないで、ただそこにいて、それがすごいという感じなんですけど。山田の方はとても細かい演技をするので寄りのショットを撮るのが楽しいです。

——— 本作の題材は主役の二人との話の中ですべて決まったのですか?

竹内:二人と話して決めたところもありますし、元々描きたいテーマもありました。劇中に星野さんというクラスで手首を切って途中で消えてしまう女の子がいるのですが、そのクラスメイトが消えたことに対して、主役の子が他人事なんだけど心が揺れてしまうような感じを描きたいという気持ちがありました。そのクラスメイトも消えて終わりじゃなくてまた戻って来るみたいな部分も残して。そこにいた、消えちゃった子じゃなかった方の残された側の子たちの話をやりたかったんですよ。部活でどうのこうのというのは、それよりももうちょっと後で加わりました。

——— 『桐島、部活やめるってよ。』(2012/監督:吉田大八、以下『桐島』)みたいな感じですか?

竹内:『桐島』を観た人のツイッターの感想で、「『桐島』に自分がいなかった」というのがあって、あの作品ではスクールカーストが描かれていますけど、でもその枠にも入らないような、例えば机で突っ伏して寝ているような人なんかはいなかったみたいなことを書いてあるのを見たんです。私も吹奏楽部だったのでわかるところもあったんですけど、あそこには確かに自分みたいな人は居なかったなと思いました。『桐島』はこれまであまり描かれてこなかった青春の部分が描かれた作品ではあるんですけど、そのツイートをみたことがきっかけで、私は『桐島』で描かれていなかった人たちを題材にやりたいという気持ちがありました。

——— 確かに私も『桐島』に自分はいなかった派ですね(笑)。

竹内:あと私の場合は周りに中退するような子も多く居て、その子たちのことも描けたらと思いました。そこを描いたら、きっと『桐島』に自分が居なかった人の中にも何となくわかる人がでてくるのかなって思いました。

——— 主役二人以外にも様々なキャラクター出てきましたが、それは主役二人を引き立たせるためだったのですか?それとも別の狙いもあったのですか?

竹内:普通の人を描きたかったんです。なので普通な主役の周りにちょっとキャラ付けされた人を配置することで、その普通さを描こうとしました。主役が埋没したという意見もあったんですが、全体的にフィクション度が高い中で、その二人はどちらかというとリアリティの方に寄せたいという気持ちがありました。特に飛田自身が良い意味で普通なんです。山田はとても気が強かったりとか強い個性があるんですが、飛田は普通というか、逆に普通過ぎて変わってるというか、それが彼女の魅力だと思います。

——— 確かにそういう作りになってますよね。分散的というか。

竹内:あと世代は高校生だけにしちゃうと閉じちゃうので、先生を出したり、みちる(飛田)と付き合ってる彼氏を年上にしたりしています。

——— 設定を陸上部にしたのは、どんな狙いからですか?

竹内:陸上部にしたのは、まず飛田の脚が魅力的だったというのが大きな理由です(笑)。彼女は走れませんし、山田も走れませんが。本当はもっと身体の動きを撮りたかったのですが、やってみたらうまくいかず、かなり部活のシーンを減らしました(苦笑)。

——— 私も見ていて、陸上部という設定の割には、走ったり汗をかく描写が少ないのがちょっと気になりました(笑)。

竹内:そうですよね。だから出来上がったときは焦りました。陸上のシーンがなさ過ぎでしょう!って(苦笑)。

——— でも全然違うところで魅せていく映画ですよね。

竹内:でも本当はスポーツを撮りたいという気持ちはすごくありました。映画でテニスを撮ったこともあって、そのときも上手くいかなかったんですけど…身体が動くというのは映画的な題材だと思うのでこれからもチャレンジはしたいです。

今の時点で自分が映画を続けていくことを受け入れてもらえるのか知りたかったんです。

——— TAMA NEW WAVE(以下「TNW」)に応募された経緯を教えて頂けますか?

竹内:私が手伝った『くじらのまち』と一緒にPFFに入選していた『かしこい狗は、吠えずに笑う』(2012/監督:渡部亮平)が、後にTNWでグランプリを受賞したと聞き、TNWの存在を知りました。プロの審査員ではない一般のお客さんが審査するというのは、映画の内容に重点が置かれた審査だと思うので、グランプリを観客投票で選ぶ(※1)というのはすごくいいなと思いました。以前から映画祭への応募は考えていたのですが、影響されやすい性格なので賞やコンクールといったものが苦手で、応募自体は今回が初めてです。『みちていく』は卒業制作だったので、みんなに観てもらうチャンスがあるなら出してみた方がいいなと思って応募しました。これでダメだったら映画を続けずに普通の会社に就職することを考えていました。学内の人たちとは自分たちの映画について演出面やテクニックの話はしていましたが、一般的な感想や評価はわからなかったので、今の時点で自分が映画を続けていくことを受け入れてもらえるのか知りたかったんです。だからTNWにノミネートして、グランプリを頂けて、とても嬉しかったです。これがきっかけで、演出やカット割りといった技巧的なところを磨いていくことだけに偏らずに、内容的な面に力を入れて、映画を制作している人にも制作していない人にも誰にでも面白いと言ってもらえるような作品を作っていきたいと考えるようになりました。それまでは誰にも観られなくても映画を続けて、自分の思う良い映画を撮って、映画と一緒に死ぬのかな…みたいな気持ちが強かったのですが、すごく健全な気持ちになりました(笑)。

——— それはよかったです(笑)。

自分がどう撮るか試行錯誤したことを「演出」というんだって知って、「あ、演出って楽しいかも」と思いました。

——— 映画制作はいつから始めたんですか?

竹内:大学一年生のときです。

——— 映画を撮りたいと思って映像身体学科を受験したんですか?

竹内:全然そんなことはなくて、最初は心理学科を受験する予定だったんです。でも出願の時に同じ現代心理学部のもう一つの学科に映像身体学科(以下「映身」)というのがあるのを見つけて突然「あー、大学は勉強したくない」と思って、その場で映身に○をつけちゃったんですよ(笑)。当時は映像=映画というイメージしかなかったので映身に入ったら映画を作らなきゃという気持ちがあって、脚本をやってみようと思っていたのですが、サークルの先輩に自分で撮ることを勧められて撮り始めました。カット割りとかを全く知らない状態で恐る恐る撮ったら、それに対してみんながとても真摯に反応してくれて、それがすごく楽しくて。 あそこでこんな演出をしたでしょって指摘されたときに初めて、自分がどう撮るか試行錯誤したことを「演出」というんだって知って、「あ、演出って楽しいかも」と思いました。そう思って続けている内にカメラで撮ることの面白さにも気づいていったという感じで…。発見の日々でした。

——— 映画自体は昔から興味があったんですか?

竹内:さほど興味はなくて、金曜ロードショー=映画のイメージでした。母が観ながら「あの人、死にそうね」みたいな感じで話の先を言ってその通りになると、ご都合主義的だなって感じがして、そんなに映画が面白いっていう感覚はなかったんです。でも大学に入って観た映画、みんなが教えてくれる映画や授業中に見る映画は、すごく面白くて。

——— 最初にその面白さに気づいた作品は何ですか?

竹内:最初に観て自分で映画制作をやってみたいと思ったのは、山中貞雄監督の『丹下左膳餘話 百萬兩の壺』(1935)でした。何でこんな単純なお話がこんなにも面白いんだろうって。そのとき授業で先生が演出の指摘もしていて、そういう風に映画を観るんだって驚いて。『キッズ・リターン』(1997/監督:北野武)もレポートの課題で観て、こういう風な感じもできるんだっていう発見がありました。男の子二人の話なんですけど、型にはまった映画じゃないっていうか。何というか本みたいな……。

——— 本はよく読んでたんですか?

竹内:高校時代は部活ばかりだったんですけど、子どもの頃は児童文学をすごく読んでいました。あの頃が今の私に活きてます。

——— 大学に入ってずっと万田邦敏先生(※2)に習っていたんですか?

竹内:そうですね。『みちていく』の脚本は万田先生にずっと相談していました。脚本の段階ではそうでもなかったんですが、企画の段階で何度ダメと言われたことか…(苦笑)でもそのおかげでこの作品ができました。最初に企画書を出して書いてみたらどうかと勧められたのは、「二人の女の子がお互いに憧れていて、片方が似せる為に髪を切る」みたいな話でした。それで少し書き出して推敲を重ねていく内に、「一人が消えてもう片方も消えていく」という話が出てきたので、タイトルは『消えていく』がいいねって感じになって。そこから更に考え直す内に、私が本当にやりたいのは「満ちていく」だってわかって、そこから月の満ち欠けや繰り返しといったテーマにリンクさせて書いていきました。

——— 万田先生からどんな演出を学びましたか?

竹内:たくさんありますが、一番は「人物の内面は、行動や何かしらの演出にかえないと映らない」ということです。例えば会話をするシーンでも、単純に座ったままや立ったままで会話をするだけにならないように、役者さんが動きたそうにしていたら「そこで動いてみたらどうなるか」など出来るだけ動きをつけていくようにしています。

——— 撮影では最初にカット割ありきではなくて、まず芝居を作っていくんですか?

竹内:そうですね。私はそういうタイプです。事前に決めていくときもありますけど、基本的にはその場で作ってます。というのも、万田さんが「絵コンテに芝居を合わせようとしないために、カット割を決めて行かないほうがよい」とおっしゃっていたので…でもやりはじめてそれが相当難しいと気づきました(苦笑)。今更ですけど万田さんだからできたことでした。

——— 部室で主役二人が会話するシーンが、会話しながら常にアクションが伴っていて上手いなと驚きました。

竹内:それも万田さんの影響ですね(笑)。

みちるみたいに周りの雰囲気に流されてどんどん変な方向に行ってしまう感じを描いてみたかったんです。

——— 女性独特の感覚とか要素みたいなのがいっぱいあって、あれだけエースと部長で対立してた中でも、ちょっとした秘密を共有だけであんな感じになるというのが驚きでした。男の人は良くも悪くもライバルはライバルでという関係で、シンプルだと思います。好き嫌いは別として、「あ、女子ってあんな感じなんだ」という発見がありました。

竹内:女子って反発し合っていても、何故かコロッと仲良くなっちゃうところあります。

——— ある意味、すごく新鮮でした。

竹内:カラオケで悪口というか嫌みを言っているシーンがあるんですけど、それが衝撃だったという男の先輩がいて。凄くピュアな先輩なんですけど「え!?あんな会話すんの?」って言われて、「いや、あれはましな方だと思います」とかもありました(笑)。

——— 男子にとっては、結構衝撃的なシーンがあるんですよ。

竹内:みちるが前半に「知らない」とか「わからない」とか状況に流されて沢山嘘をつくんです。しかも、人のノートを盗んで嘘をつくという。それは男女問わず観た人からびっくりしたと言われました。みちるみたいな子は私のタイプとは違うし友達にもいなかったんですけど、彼女みたいな子がいるとしたらどういう世界の捉え方をしているのかに興味があって、それを描いてみたいと考えていました。新田(山田)の方が落ち込む時にも自覚的に落ち込むと思うんですよ。「あ、あたしってこんなことがあったから落ち込んだんだな」とか「これからはこうしよう」とか。私自身は新田の方が近いんですけど、みちるみたいに周りの雰囲気に流されてどんどん変な方向に行ってしまう感じを描いてみたかったんです。自意識はそこまで強くないんだけどなんだかモヤモヤしているみたいな…そんな人の方が多いのでしょうか?私自身は自分以外になったことないのでよくわからないのですが…。

——— 多いと思います。あの時期で自分の意志を持って新田みたいに決めたり行動できる子はあまりいないと思います。自分の感覚とは異なるキャラクターはどう作り上げているんですか?周りの人に聞いたり、あるいは想像ですか?

竹内:飛田を見ながら勝手に想像して作りました。飛田は嘘をついたりなんて全くしないですし天真爛漫で真っすぐな人なんですけど、一方で周りに影響されすぎてしまうところや自分に自信がないときがあるという一面もあったので、みちるの身体や存在感には天真爛漫で真っすぐな人という部分が自ずと滲み出てくるだろうと考えて、それならば性格としては影響されやすいところや自信がないところをデフォルメしてみたらどうなるかなと考えました。

みんなでいるときと二人でいるときとで違うけれど、どちらも同じ人っていうのが好きなんです。

——— これからどういう作品を撮りたいですか?

竹内:私の年齢(23 歳)以上の話をやりたいと思っています。それと、私は自分は女の人が主人公じゃないと書けないと思って『みちていく』でははじめから男の人を排除してしまったんですけど、次はちゃんと男の人も描けるようになりたいと思っています。付き合っているかどうかは関係なく男の人ってみんなといるときと二人でいるときで話す内容や雰囲気が全く違うと思うんですけど、男の人同士はその変化をお互いに見ることはないじゃないですか。だから、そこを取り上げたらちょっと面白いんじゃないかと思って、それもあって男女の関係を描いてみたいと思っています。

——— その視点は面白いですね。

竹内:みんなでいるときと二人でいるときとで違うけれど、どちらも同じ人っていうのが好きなので、そこを肯定的に描けたらなと思っています。

  • 映画祭実行委員会で選出したノミネート作品をコンペティション当日に一挙上映し、 実行委員票と一般観客(=事前応募の“一般審査員”)投票の合計点でグランプリを決定している。
  • 万田邦敏・・・1956年生まれ。雑誌での映画批評やPRビデオの演出、関西テレビの深夜ドラマ(「極楽ゾンビ」「胎児教育」)の演出を経て、『宇宙貨物船レムナント6』で監督デビューを果たす。主な監督作品に『UNLOVED』(01)『ありがとう』(06)、『接吻』(07),『イヌミチ』(14)など。

『みちていく』

6/27(土)より渋谷ユーロスペースにてレイトショー公開。

歳の離れた恋人に身体を噛んでもらうことでしか満たされない陸上部のエースみちる(飛田桃子)。生真面目で部員達に疎まれる部長の新田(山田由梨)。二人は互いの空虚を埋め合うように、だんだんと近づいていく———。

  • 2014/HD/89分
  • 監督・脚本=竹内里紗
  • 撮影=松島翔平
  • 音楽=金光佑実
    • 飛田桃子、山田由梨、鶴田理紗、西平せれな、崎田莉永、山口佐紀子、篠原友紀、宮内勇輝、泉水美和子、小野孝弘

竹内里紗監督プロフィール

1991年生まれ、神奈川県出身。立教大学映像身体学科にて万田邦敏教授のもと劇映画の演出について学びながら、自主映画製作サークル「シネマトグラフ」にて自主映画の製作に携わる。同大学卒業制作である『みちていく』が第15回TAMA NEW WAVEグランプリ、第12回うえだ城下町映画祭で大賞を受賞し、今年劇場公開される。