焼け野原から高度成長へ - Vol. 1 -

11月21日 「焼け野原から高度成長へ - Vol. 1 -」 (やまばとホール)

●Time Table●
13:00−14:53
15:10−16:44
煙突の見える場所
お早よう

煙突の見える場所
1953年/新東宝製作・配給/1時間48分
 
監督=五所平之助
原作=椎名麟三
脚本=小国英雄
撮影=三浦光雄
音楽=芥川也寸志
出演=田中絹代、上原謙、高峰秀子、芥川比呂志
 
煙突の見える場所
 
[ストーリー]
 東京千住のおばけ煙突ーーそれは見る場所によって一本にも二本にも、又三本四本にもみえる。足袋問屋に勤める緒方隆吉(上原)は、戦災未亡人の妻・弘子(田中)と暮らす平凡な中年男。その緒方家の縁側に或る日、捨子があった。添えられた手紙によればそれは弘子の前夫塚原のしわざである。隆吉は徒らにイライラし、弘子を責め続け、とうとう弘子が家出したり引戻したりの大騒ぎになった。
 
[コメント]
 東京・千住にある、見る場所によっては四本にも一本にも見えるという巨大な「お化け煙突」。この界隈を舞台に、戦後の日本を生きる庶民の悲喜こもごもを描き出した五所平之助監督の代表作。足袋問屋に勤める実直な中年男・緒方隆吉は、戦災未亡人であった妻弘子とつつましく暮らしている。生活の足しにと二階を税務署員の久保健三と、街頭広告のアナウンス嬢、東仙子に間貸ししているが、そこに見も知らぬ赤ん坊が置き去りにされていたことから一騒動が持ち上がる。実存主義的な作風で知られる椎名麟三の短編「無邪気な人々」を中心に、黒澤明作品で知られる小国英雄が脚本を書き、五所監督自らが主宰する独立プロダクションで製作した「不思議な笑い」を醸し出す一篇となった。

お早よう
1959年/松竹製作・配給/1時間34分
 
監督=小津安二郎
脚本=野田高梧
撮影=厚田雄春
音楽=黛敏郎
出演=佐田啓二、久我美子、笠智衆、杉村春子、東野英治郎
 
お早よう
 
[ストーリー]
 東京の郊外ーー小住宅の並んでいる一角。向う三軒両隣、日頃ちいさな紛争はあるが和かにやっている。奥さん連中の悩みの種は、相撲が始まると子供たちが近所の家のテレビにかじりついて勉強をしてくれないことだ。子どもを叱ると、子どもたちは、そんならテレビを買ってくれと云う。
 
[コメント]
 子供の目を通して、大人たちが何気なく過ごしている日常のおかしさを、ユーモラスに描いた小津安二郎監督作品。舞台は戦後日本の典型的な風景である郊外の新興住宅街であるが、小津監督が得意とした長屋物の戦後版ともいえる内容である。ロー・アングルや端正な演出で知られる小津作品らしく、巧みな人物の出入りやほのぼのとした会話の妙などに独特の風格をもっている。挨拶をめぐるたわいもない物語に豊かな表情を与え、絶妙なテンポで独自の世界を作り上げていく、その演出スタイルはすでに完成の域に達していた。その巨匠が敢えて「オナラ」の挿話を展開してみせるところに、前年、紫綬褒章を受け、またこの年芸術院賞を受賞した、彼一流のダンディズムを感じることもできるだろう。