さまざまな恋愛模様

11月23日 「さまざまな恋愛模様」 (パルテノン多摩小ホール)

●Time Table●
12:00−13:56
14:40−15:52
15:52−16:20

16:40−18:04
18:20−19:57

19:57−20:30
blue
17才
ティーチ・イン
 木下ほうか監督、猪俣ユキ氏
藍色夏恋
- 特別先行プレビュー -
アニムスアニマ
ティーチ・イン
 斉藤玲子監督、忍成修吾氏、
 司会:武藤起一氏(映像環境プロデューサー)

blue
2001年/blue PRODUCTION PARTNERSHIP オメガ・ミコット、広美、衛星劇場製作/オメガ・ミコット+スローラーナー配給/1時間56分
 
監督=安藤尋
原作=魚喃キリコ
脚本=本調有香
撮影・照明=鈴木一博
美術=鈴村鏡子
音楽=大友良英
編集=冨田伸子
出演=市川実日子、小西真奈美、今宿麻美、仲村綾乃、高岡蒼佑、村上淳
 
blue
 
[ストーリー]
 高3。クラスメートとおしゃべりしながら屋上でお昼したり、放課後を思い思いに過ごしたりしながらも、「進路」という言葉に敏感になる時期。
 主人公の桐島カヤコ(市川)は、同じクラスの遠藤(小西)だけが特別に見えた。それは恋心に似た憧れだった。桐島と遠藤、ふたりの女の子が過ごす毎日のなかで、本当の自分を探そうとする放課後がここにある。
 
[コメント]
 blueーー。空の青、草木の青、海の青、そして青春の青……。私たちは生きていて様々な“青”を体験している。映画『blue』はまさにその“青”体験の高校生活を舞台に描かれたふたりの女の子の物語、魚喃キリコ著のマンガ「blue」が原作だ。マンガではディティールを極力減らした画で行間を読ませ、その空気感を楽しめるが、映画ではそこに分かりやすく色が加わる。
 憧れの人と仲良くなりたい、そしてその人のすべてを知りたい。主人公の桐島と遠藤は、お互いに認め合える存在を欲している。高校生活でこのふたりのように絶妙に気が合い、一緒にいて居心地いい相手を見つけられるなんて幸せだ。この映画にはふたりが黙ったまま佇むシーンが多い。ポツリポツリとお互いが言葉を交わす、がんばって話している感じがなくて、黙っていても心が通じ合えてる気がする。ふたりが夜明けの青い海を眺めてお互いの将来について語りあうシーン、その青はまぶしくてどこか懐かしい感じがした。 (小里)

17才
2001年/スローラーナー配給/1時間12分
 
監督=木下ほうか
脚本・原案=猪俣ユキ
企画=猪俣ユキ、三輪明日美
撮影=大道省一
音楽=浅井勇弥
編集=松田和茂
出演=三輪明日美、猪俣ユキ、菊池百合子、徳井優、高岡蒼佑、水橋研二
 
17才
 
[ストーリー]
 主人公のアコ(三輪)は高校に通う17才、放課後はキャバクラでバイト、学校では居眠りばかりで何となく毎日を過ごしていた。アコの周りには、イギリスへ行く彼氏と一緒に行くのが夢のリョウ(猪俣)や、フランス留学するヒトミ(菊池)がいた。アコは彼氏もいないし夢もない、はじめて不安と孤独を感じる。アコも自分の居場所を求めて前に進もうとしていた。
 
[コメント]
 早く大人になりたい、でもずっとこのままでいたい。この映画のように、17才の頃は不安定な気持ちのなかでいろんなことを考え、成長していく時期なのかもしれない。
 『17才』は、リョウ役の猪俣ユキが18才のときの日記をもとに、アコ役の三輪明日美とふたりで企画を立ち上げたものだ。10代の映画が好きな若手女優から始まり、彼女らに共感した俳優たちが参加してうまれたものらしい。だからこそ等身大彼女らが描く「17才」は、誰にでもある忘れられない体験で共感を呼ぶ。非日常的な事件のない淡々としたドラマに感動するのは、そのリアルさに自分を重ねるからだろう。孤独を感じながらも自分の居場所を求めてヒロインたちが第一歩を踏み出そうとする姿には声援を送りたくなる。むしろ、自分の力で前に踏み出すために一度は孤独を感じる必要あるのだといっているようにも思う。この『17才』をきっかけに何か新しい一歩を踏み出す勇気を与えられる気がする。 (小里)

藍色夏恋
藍色大門
2002年/台湾・フランス合作/ムービーアイ+トライエム共同配給/1時間24分
 
脚本・監督=イー・ツーイェン
撮影=チェン・シャン
美術=シァ・シャオユィ
編集=リャオ・チンソン
音楽=クリス・ホウ
出演=チェン・ボーリン、グイ・ルンメイ、リャン・シューホイ
 
藍色夏恋
 
[ストーリー]
 台北の高校に通う女子高生のモン(グイ・ルンメイ)は、親友のユエチェンに頼まれ、チャン(チェン・ボーリン)という水泳部の男の子に接近する。しかしチャンはユエチェンではなく、モンに恋をしてしまう。最初は親友を気遣い全く相手にしなかったモンだが、チャンのひたむきさに好感を持ち始める。やがてモンはチャンにある秘密を明かす……。
 
[コメント]
 台湾の高校に通う2人の少女と1人の少年のほのかな三角関係を描く今作は、10代の少年少女の何気ない日常に潜むキラメキを見事に表現している。登場人物はごくごく普通の高校生。彼らはドラッグに溺れていることもないし、人を殺したりもしない。本当にどこにでもいるような普通の高校生なのだ。彼らの毎日には決して劇的なことは起こらない。けれども、そんなありふれた日常にこそ、大きなドラマはあるのではないだろうか。初めての恋にときめいたり、戸惑ったり、胸を痛めたり。先の見えない将来に対して、漠然とした不安を持ったり。かつて10代の頃、誰もが味わった恋のときめきや痛み、将来に対する不安は、こんなにもドラマチックなことだったのかと、この映画を観て、痛感してしまった。果たしてあなたの10代にはどんなドラマがあったのだろうか。これを機に高校時代の思い出に浸ってみるのもいいかも。 (志村)

アニムスアニマ
2003年/ニューシネマワークショップ製作/特別協力:松下電器産業株式会社/1時間37分
 
監督・脚本=斉藤玲子
プロデューサー=武藤起一、竹平時夫
撮影=浦田秀穂
録音=小林徹哉
美術=島根裕子
出演=忍成修吾、椎名英姫、阿久根裕子、目黒真希、田中要次
 
アニムスアニマ
 
[ストーリー]
 弟のトキオ(忍成)は腕のいい美容師で、姉のスイはOL(椎名)。2人はまるで恋人同士のように都会のマンションに暮らしていた。そんな2人は美しくあるということだけに価値観を見い出し、ただ自由奔放に暮らしていた。
 ある日、スイが仕事に目覚め、転職して独り暮らしを始めると言い出す。反対するトキオを相手にせず部屋を出ていくスイ。そのときから2人の生活の歯車が狂っていき——。
 
[コメント]
 斉藤玲子監督の処女作『盗んだパンをちぎってあげる』は片思いと思い込んだ彼のために無償の愛を貫く女の子をフランス映画を彷彿とさせる遊び心溢れるPOPな感覚で描いた作品で、日本映画とか自主映画とかそんな枠組みを軽く飛び越えたまったく新しい作風の作品として新鮮な驚きがあった。
 今回、劇場用公開作品としてどのような作品を撮るのか非常に興味深かったが、POPなセンスを抑えて二人の姉弟をいかに美しく描き切るかということに全神経を注いでいるのが手に取るようにわかった。それを支えているのが『自転車とハイヒール』(2000)の浦田秀穂の透明感溢れるキャメラである。レースのカーテンからこぼれるやわらかい陽射しに象徴される白を基調にした画面のなかに姉弟の屈折した感情のもつれがくっきりと浮かび上がってきている。弟役を演じた忍成修吾のナイーブさのなかに芯の強さを感じさせる存在感が印象的である。 (淳)

●ゲストの紹介
木下 ほうか(きのした ほうか)監督

 1964年大阪生まれ。高校時代の『ガキ帝国』(81)の出演をきっかけに俳優を志す。大阪芸術大学卒業後、吉本新喜劇に3年間在籍。89年上京後、映画、ドラマ、Vシネマを中心に本格的に活動する。主な出演作品に『岸和田少年愚連隊』(96)、『マルタイの女』(97)、『絆』(98)、『のど自慢』(98)などがあり、『sWinGmaN』(00)では初プロデュース、初主演を果たす。本作『17才』が初監督作品となる。現在、最新監督作を準備中。
 
メッセージ

 この『17才』は3年前に、まったくの自主制作のかたちで始まりました。
 予算も0円、準備も一週間たらずの無謀なスタートでした。それでも完成までこぎつけることが出来たのは、映画を愛する仲間たちがいたからです。映画の現場を覗くと、そこには例外なく映画を愛してやまない集団がいます。お金や待遇ばかりでなく、何か形の見えない価値に吸い寄せられている人の集まり。この映画祭にも、そうした愛情に包まれた作品ばかりが集められたことでしょう。
 そして『17才』に参加してくれた若者たちがいま、各分野で目覚ましい活躍をしています。企画・脚本の猪俣ユキも監督デビューを果たし、主演の三輪明日美嬢に至ってはもうすぐお母さんです。いや?、めでたい、めでたい!!
 監督という位置づけは自分にとって何か気恥ずかしさ、正直、責任感のなさを感じます。きっと、むいてないのでしょう……。
 次回は、ぜひ俳優として参加出来れば嬉しいですね。
 
猪俣 ユキ(いのまた ゆき)氏

 1982年福岡県生まれ。スカウトされ中3で上京。99年塚本晋也監督『双生児』で映画デビュー。その後、「カバチタレ!」、「恋がしたい恋がしたい恋がしたい」などといったTVドラマ、CMに多数出演。『17才』を製作後、高校卒業記念として初監督した『ナオと僕』(短編)が第6回水戸短編映像祭にノミネートされる。またTVの「珍山荘ホテル」や「僕たちの日々」では脚本を担当。女優業にとどまらず監督、脚本など新しい一歩を踏み出している。
 
メッセージ

 21になった。
 彼女はもう少しで22になる。お互いの環境は、少しずつ変わってきた。私は料理が少し上手になり、苦手だった珈琲も飲めるようになった。私は去年の夏から一人で暮らすようになった。自転車も大きなタイヤのやつに乗り換えた。その分遠くまでいけるようになったけれど、帰り道をすぐに忘れてしまうようになった 。敬語を少し覚えたけれれど、英語はなかなか上達してはくれない。疲れやすくなったし、ズルくもなった。
 彼女は苗字が変わった。来年には家族が増える予定もある。しかし二人、顔を合わせたならば、そこには変わらない風景がある。私は相変わらず前髪が揃っていて、彼女は相変わらず鼻声だ。二人は、この映画のことを一切口にしない。大人を騙したり、自転車を盗んだり、居なくなってみたり。まだあの延長線に私たちは居る。騙されてみたり、盗まれてみたり、居なくなられてみたりしながら。少しずつ、変わりながら、少しずつ、進んでいっている。
 どこへ?と聞かれた時には、自信を持ってこう答えるだろう。
 さぁね?
 『17才』上映していただき、幸せに思います。監督、スタッフ、公開に関わってくださった皆さん、愛してます。
 
斉藤 玲子(さいとう れいこ)監督

 1973年生まれ。武蔵大学社会学部卒業後、通信会社に就職。97年、会社に通いながらニューシネマワークショップ(NCW)に通い始める。98年『盗んだパンをちぎってあげる』(16ミリ)を初監督。第1回TAMA NEW WAVE のノミネート作品に選ばれる。99年会社を退社し、女優の有路有子とガールズシネマ・セルフプロデュースユニット「cinemacine」をつくり、インディーズでの映画製作、上映活動を開始。2002年、第1回NCWフィーチャープロジェクトに応募した自身の企画『アニムスアニマ』の製作が決定した。
 
メッセージ

 初めて作った自主映画をコンペティションで上映してくださったのがTAMA CINEMA FORUM でした。私にとって映画を作る過程の魅力は人との出会いです。はじめにスタッフと出会い、役者と出会い、そしてついに観客の方々に出会える。映画監督になりたいと思ってから今まであっという間でしたがたくさんの人に出会い、力をいただきました。今回も多くの方に出会えることに感謝し楽しみに思っています。
 
忍成 修吾(おしなり しゅうご)氏

 1981年生まれ。99年に俳優としてデビューし、数多くのテレビドラマに出演。2001年に公開された岩井俊二監督作品『リリイ・シュシュのすべて』で主人公をいじめるキケンな中学生の役を演じ一躍注目を集める。その後、テレビ「さよなら小津先生」、「婚外恋愛」、「太陽の季節」などにレギュラー出演し、映画『青い春』(02)にも準主役で出演するなど活躍の場を広げる。そして『アニムスアニマ』が初の主演映画となる。
 
メッセージ

 TAMA CINEMA FORUM にご招待いただきありがとうございます。『アニムスアニマ』は僕の初主演作です。すごくプレッシャーだったり、役作りで身に付けなければいけないことがあったりで、始まる前にはいろいろ不安でした。現場に入ってからは、監督も周りの方もとても親しみやすい方々だったので、すごくリラックスできて楽しく仕事ができました。
 そして完成した『アニムスアニマ』を観て、一番印象に残ったのは、監督の画へのこだわりと、綺麗さでした……。
 
司会:武藤 起一(むとう きいち)氏

 映像環境プロデューサー。1957年、茨城県生まれ。早稲田大学シネマ研究会時代に多数の自主映画を制作。'85〜'91にPFFのディレクターを、'91にはあの伝説の深夜番組「えび天」の審査員を、'93神戸国際インディペンデント映画祭ではディレクターを務める。現在、映画の新たなる旗手を育てるべく、ニューシネマワークショップを主宰。一方、劇場公開作品として『アベックモンマリ』(大谷健太郎監督、99年公開)および『とらばいゆ』(同監督、2002年公開)をプロデュース、高い評価を得た。最新プロデュース作は『アニムスアニマ』。