オープニング企画:フォーラム推薦作品

11月21日 「オープニング企画:フォーラム推薦作品」 (やまばとホール)

●Time Table●
12:00−12:10
12:10−14:25
14:40−15:10
15:30−17:48
18:10−19:53
オープニング
愛を乞うひと
トーク ゲスト:平山秀幸監督、原田 美枝子氏、司会:北川れい子氏
恋愛小説家
HANA-BI

愛を乞うひと
1998年/東宝/2時間15分
 
監督=平山秀幸
原作=下田治美
脚本=鄭義信
撮影=柴崎幸三
美術=中澤克巳
編集=川島章正
出演=原田美枝子、中井貴一、野波麻帆、小日向文世、熊谷真美、國村準
 
愛を乞うひと
 
[ストーリー]
 敗戦の傷跡も色濃い1950年代。施設から母親・豊子(原田)に引き取られた娘・照恵(野波)。その日を境に照恵は特異な幼児体験をする。実の娘に日々殴る蹴るの凄まじい虐待を加え続ける。そんな暴力にさいなまれて育つ照恵は、仕事帰りのある日、家を飛び出す。
 四十代を迎えた照恵(原田・二役)は、一人娘を持つ母親となっている。幼い頃死別した台湾人の父の遺骨を探すために、照恵は娘(野波)と二人で台湾へと旅立つ。再び蘇る壮絶な過去の記憶と向かいながらも、照恵は今も生きている母親に会いにいく……。
 
[コメント]
 すごい。今年の日本映画でイチバンだ。愛し方を知らない母、愛され方を知らない娘。そしてその一人娘。その三世代通じて映し出される母と娘の失われた愛を求める物語。激情の趣くままに暴力を繰り返す母親と、その暴力にさいなまれて育つ娘。その対照的な二役を原田美枝子が見事に演じきる。スクリーンを観ていてこれが同じ役者かと、思わず目を疑うほどだ。改めて原田美枝子の女優魂を感じた。
 この作品は、途中いくつかの疑問点が生じてくるが、特に意味づけを行なわず、観客に放り投げている。その趣向がかえって観客に素直にテーマを受け止めさせている。幼い頃に親などから虐待的行為を受け、心に傷を負ったまま大人になっていく人の話や事件を時々耳にする。そういった人は将来自分に子供ができたらその子にどのように接していくのだろうか。照恵が自分の娘を育てていく、そういった過程も少し見せてくれれば、もっとテーマが明確に見えてくるのではと思う。折檻のシーンは役者のぶつかり合う熱演、頭をぶつける音や髪を引っぱる音、残酷なほどリアルだ。本気で怖いと思えた。それ故にラストのバスのシーンはとても感動的だ。自分も誰かの肩を借りて泣きたい気持ちになった。
 脚本は『月はどっちに出ている』の鄭義信。モントリオール国際映画祭国際批評家連盟賞受賞。 (七)

恋愛小説家
AS GOOD AS IT GETS
1997年/アメリカ/トライスター/ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント配給/2時間18分
 
監督・脚本=ジェームズ・L・ブルックス
原案・脚本=マーク・アンドラス
撮影=ジョン・ベイリーA.S.C
音楽=ハンス・ジマー
美術=ビル・ブルゼスキ
編集=リチャード・マークス
出演=ジャック・ニコルソン、ヘレン・ハント、グレッグ・キニア
 
恋愛小説家
 
[ストーリー]
 売れっ子の恋愛小説家(J・ニコルソン)は愛情とは無縁な男。食事には常にプラスック製フォーク、ナイフを持参し、一度使った石けんはごみ箱へ、道路のブロックの縁は避けて歩く変わり者。そんな彼が唯一心を開くのは行き付けのウエートレス(H・ハント)。彼女はシングルマザーとして、病身の息子を抱えつつ、自分自身の行く末を模索している。ひょんなことから始まる大嫌いな犬との共同生活。そして、その飼い主であるゲイの芸術家(G・キニア)との友情。彼の心の扉がひとつずつ開くとき、ついに小説家にも恋心が芽生え、ウエートレスと恋を語らう時が訪れるが……。
 
[コメント]
 他人と上手に接することができないため、毒舌の鎧をまとい自分本意の日常を愛しながら、その反面、他人(人間)を理解しないのに、男と女の恋愛物語を書き続ける小説家。そんな彼の心の扉を開く女性は身近にいた。97年度アカデミー主演男優及び主演女優賞を受賞した芸達者たちが贈るハリウッド版小粋なラブロマンス。主役を演じる怪優J・ニコルソンはこんな役柄をあっさりと、自分のための役柄として演じきってしまう。観客もジャックワールドに引き込まれ、安心して魅了されてしまう。もちろん演出はおしゃれで、ロマンチックを忘れていない。そして、脇役がいい。特にG・キニアは今後どんな役柄で私たちの前に登場するか楽しみな役者だし、子犬はJ・ニコルソンの演技を食うほどだった(彼も負けじと噛み付いていたが……)。
 彼がアカデミー賞授賞式で見せた司会者との終始笑顔での掛け合いは、経験、キャリアによる賜物と言えるのだろうか。ブルーの清楚なドレスに身を包み、かつての往年のエレガンス女優を思い起こさせるH・ハントの可憐なスピーチは、彼女が一躍スター女優への階段を駆け上がったことを告げる出来事であった。
 私も、多摩で行き付けの素敵な店を探し、小粋なストーリーの恋愛を味わってみたい。
 ジャック、オスカー受賞おめでとう。 (摂)

HANA-BI
1997年/オフィス北野、日本ヘラルド/1時間43分
 
監督・脚本・編集=北野武
撮影=山本英夫
音楽=久石譲
美術=磯田典宏
編集=太田義則
出演=ビートたけし、岸本加世子、大杉漣、寺島進、薬師寺保栄、白竜
 
HANA-BI
 
[ストーリー]
 刑事の西(ビートたけし)は、子供を亡くして心身が弱ってしまった妻(岸本)を病院に見舞う。逃走中の犯人を張り込み中に同僚の堀部(大杉)が配慮してくれたのだ。その堀部が犯人に撃たれ、下半身不随となってしまった。西は地下街で犯人を追いつめたがまた同僚を失う。自分の身代わりになったと悔いる西は辞職し、銀行強盗で大金を得て堀部や殉職した同僚の家族に生活費を用立てる。そして、残り少ない命の妻と最後の旅に出る。借金取りたてのヤクザ、元部下の刑事が彼等を執拗に追う。
 
[コメント]
 やさしい。言葉を語らないからまた哀しい。西、妻、堀部、犯人(薬師寺)、ヤクザ(白竜)、元部下(寺島)みんな寡黙。表情と背景だけでせつなく、不気味、凄惨、やるせなさ、無力感などをこんなに豊かに表現出来るのか。妻は最後に一言しか喋らないが、子供を失った悲しみや気持ちが離れていた夫とのゆっくりとしたふれあいがひしひしと伝わってくる。
 これはやはり「北野ワールド」なのだ。一番好きな場面はここ。周りは雪の白と夜の黒、そしてベンツを真上からのアングルで撮る。そして静寂を破って射撃音、車内から閃光が瞬時に漏れる。また静寂……。たまらない。これが映画なのだ。せりふなどいらないのだ。映像と音で語る、絵画を超える芸術をここに観た思いだ。その絵画も北野監督自身が描き、あらゆるシーンで背景を演技させている。交通事故で頭を打って「才能が開花するかな」と描きだしたらしいが、その独自な着目性と美感覚は絵画にも発揮されている。
 亡くなった黒澤明監督も絵コンテを描いた。ベネチアも獲った。素の役者を愛した。回想シークェンスも。共通点が多いではないか。北野監督の時代劇を是非観たい。 (眞)