ベスト・アート・フイルム '97

11月30日 「ベスト・アート・フイルム '97れ」 (パルテノン多摩小ホール)

●Time Table●
10:00−11:33
11:50−14:28
14:45−17:07
17:20−18:53
19:05−21:43
トレインスポッティング
奇跡の海
秘密と嘘
トレインスポッティング
奇跡の海

トレインスポッティング
TRAINSPOTTING
1996 年/イギリス/フィグメント・フィルム、ザ・ノエル・ゲイ・モーション・ピクチャー・カンパニー/アスミック、パルコ配給/1時間33分
 
監督=ダニー・ボイル
原作=アービン・ウェルシュ
脚本=ジョン・ホッジ
撮影=ブライアン・トゥファノ
美術=ケイブ・クイン
編集=マサヒロ・ヒラクボ
出演=ユアン・マクレガー、ロバート・カーライル、ユエン・ブレンナー
 
[ストーリー]
 スコットランド・エディンバラ。失業率も高く、経済的にも窮迫しているこの町で、マーク・レントン(E・マクレガー)とその仲間たちは辛い現実から目をそらすかのようにドラッグに溺れ、酒に浸り、クラブへと繰り出す刹那的な生活を送っている。そんな逼塞した現状を打破すべくレントンはドラッグ断ちをしたり、町を出て働いたりもするが状況は芳しくならず、地元に帰ってみれば、待っていたのはヤク中で死んだ仲間の葬式だった。絶望感のなか、彼は仲間たちと人生を変える最後の賭けに出るが……。果たして彼はそのチャンスを、そして自分の未来を切り開くことができるのだろうか?
 
[コメント]
 イギリス映画の傾向はおおよそ2つの系統に分けることができる。ひとつは上流社会を舞台にしたロマンティックなラブロマンス、もうひとつはシビアで現実的な労働者階級を描いたものである。前者が日本では主にポピュラーで、『トレインスポッティング』は後者にあてはまるだろう。だが、この映画は従来のワーキング・クラスを扱ったものとは少々毛色が異なっている。ここで登場する若者たちは、今までの英国の<怒れる若者たち>を描いた作品とは違い、社会に対する不満や憤りをあらわにすることもなければ、体制に反抗する主義主張があるわけでもない。ただひたすらドラッグでハイになるか、それを買うために盗みを働くかの毎日を繰り返すだけで、そんな彼らの日常をスピード感溢れる映像でコミカルに描いている。そのせいかドラッグ映画にありがちな悲惨さもあまり感じさせることがなく、それらのヴィヴィッドな描写は爽快な昂揚感すらあった。またユニークなキャラクターたちの凝りようも凄く、なかでも、すぐにブチ切れる凶暴なアル中のベグビー(R・カーライル)が、仲間うちでは唯一ドラッグをやらないという皮肉な設定は秀逸だった。彼の存在そのものが、この映画の否定も肯定もしないドラッグに対する世界観のメタファーとして捉えられているような気がしてならず、ラストシーンがそれを象徴しているかのようだった。 (齋)

奇跡の海
BREAKING THE WAVES
1996 年/デンマーク/ゼントローバ・プロ/ユーロスペース配給/2時間38分
 
監督・脚本=ラース・フォン・トリア
撮影=ロビー・ミュラー
音楽プロデュサー=マーク・ウォーリック
美術=カール・ユリウスン
編集=アナス・レフン
出演=エミリー・ワトソン、ステラン・スカルスゲールド、カトリン・カートリッジ
 
[ストーリー]
 イギリス北部の田舎町。情緒不安定な、村の娘ベス(E・ワトソン)は油田で働くヤン(S・スカルスゲールド)と結婚する。幸せな新婚生活も束の間、ヤンが油田に戻ってしまい、ベスは神様に「早くヤンを戻して下さい」と祈る。すると、ヤンは油田の事故で大ケガを負い、下半身不随の重体で命も危ない状態で村に帰ってくる。泣きじゃくるベスにヤンは「他の男と寝ろ。そしてその話を俺に聞かせてくれ」と言うのだが……。
 
[コメント]
 人によっては好き嫌いがあるらしいが、私は大好きだ、この映画。まず、ベス役のエミリー・ワトソン。この人がムチャクチャ良い。ファーストシーンからいきなりカメラ目線全開で、「おいおい大丈夫か、この娘は?」と思わせつつもデビュー作とは思えない集中力と、オールヌードも辞さない、まさに体当たりの演技で(最初のキャスティングでは、この役はヘレナ・ボナム・カーターだったらしいけど)唯一無二この役をものにしている。それにもう100年前からここに住んでるんじゃないかと思わせる位ハマっている個性豊かな脇役陣も素晴らしいし、何だかクサいんだけどストーリーが進むにつれてジワジワと心に染み渡る音楽のセンスも憎めない。それにグラグラしっ放しで、人によっては気持ち悪くなる手持ちのカメラワークもご愛敬。好きだと言いつつ、あんまりほめてない気もするがこの大傑作、どうぞじっくりご覧下さい。 (舟)

秘密と嘘
SECRETS AND LIES
1996年/イギリス/CIBY 2000、THIN MAN/フランス映画社配給/2時間22分
 
監督・脚本=マイク・リー
撮影=ディック・ポープ
音楽=アンドリュー・ディクスン
美術=アリスン・チッティ
編集=ジョン・グリゴリー
出演=ブレンダ・ブレッシン、ティモシー・スポール、マリアンヌ・ジャン=バチスト、クレア・ラシュブルック
 
[ストーリー]
 ロンドン近郊。写真家のモ−リス(T・スポ−ル)が妻のモニカと新居に移ったので、姉のシンシア(B・ブレッシン)はとり残された思いで淋しく、そして、父の顔を知らず私生児として育った娘のロクサンヌ(C・ラシュブルック)とは常にいざこざの絶えない日々を過ごしていた。それでもいたって陽気なシンシアのもとに、ある日若い女性(M・ジャン=バチスト)から電話がかかる。会いたい、自分はシンシアの子だという。確かに、シンシアは少女時代に生み、顔も見ずに養子に出した秘密の子がいた。そして、シンシアは待ち合わせのホルボーンの駅に出掛ける……。
 
[コメント]
 「あぁ、生きてるのイヤんなっちゃうなぁ」とお悩みのあなた、今度新しくいい薬ができたんですよ。それがこの『秘密と嘘』なんですけどね。成分は、人の愛・優しさ・思いやり・勇気・心の葛藤・滑稽さ・迷い等が75%で、残り25%は巧みな「言葉」の使い方と演出法です。効能は、心の病、とくに人間関係でのストレスに効果てきめんですよ。家族との関係が疎ましく思えたり、友達や恋人とのコミュニケーションにすれ違いが起きたり……私にもそんな経験はありますしね。そこでこの『秘密と嘘』を服用してみてください。最初は多少辛くて苦しいかもしれません。一生伏せておきたい秘密を表に現わす、つまりカミング・アウトするのですから。しかしその事実を真実として受け止めることができた時、人は勇気や優しさを以て初めて強くなる。後半部分にこの薬の本当の効果はあるのです。登場人物一人一人の「言葉」が患部にス−ッと浸透していくのが分かりますよ。あっ、お買い上げですね。用法は正しく使ってくださいね。ではお大事に。 (亜)