追悼・渥美清 Part2

11月29日 「追悼・渥美清 Part2」 (やまばとホール)

男はつらいよ寅次郎夕焼け小焼け(第17作)
1976年/松竹/1時間37分
 
監督・原作・脚本=山田洋次
脚本=浅間義隆
撮影=高羽哲夫
音楽=山本直純
出演=渥美清、倍賞千恵子、太地喜和子、宇野重吉、下条正巳
 
[ストーリー]
 ふらりと帰ってきた寅次郎。夜中に酔って帰ってきて、飲み屋で知り合ったルンペンのような老人(宇野)を連れてくる。この老人は日本画の大家・池の内先生だったから、とらやの面々は驚く。場面変わって寅次郎は、旅先の播川は兵庫県竜野で池の内先生と偶然出会い、先生に同行。寅次郎は土地の芸者ぼたん(太地)といい仲になる。寅次郎を追いかけるようにしてぼたんがとらやを訪れる。話を聞けば、大金を借りて逃げた男に掛け合いに来たという。寅次郎は仇をとる覚悟で出ていくが、相手の居場所を知らずなすすべなし。池の内先生に「売るための絵を描いてくれ」と懇願するがうまくいかず、万事休す。ところが、ぼたんの家に池の内先生の絵が届いた。
 
[コメント]
 帰ってきてよお兄ちゃん! おばちゃんがおいもの煮ころがしとがんもどき作っておくからね。こんなさくらさんの電話の声にも、もう寅さんは戻ってくることはない。何とも切ないセリフだった。私たちの家族のなかに寅さんがいたらどうだろうか。はたして家には寅さんという好人物がいますと、胸を張って言うことができるでしょうか。きっと世間の白い目を気にするでしょう。でもその寅さんの言動に私たちは心の中の郷愁を求めていて、皮肉にも大好きになってしまうようです。昔は寅さんのように人のために人肌脱ごうという(寅さんはズッコケたりもするのですが)男たちが、必ず自分の回りにいたような気がする。スーパーマンでもないのに、最高学府を出たわけでもないのに、なぜか頼れる人。そんな男気のある男たちは、今はいなくなってしまったように思う。誰もが夢にみる人生を措いて、今回のマドンナは芸者ぼたんを演じた太地喜和子さんだ。あんな色っぼい女性と、一度でいいから恋をしてみたいと思う男性も少なくないであろう。彼女ももうこの世の人ではない。本当に惜しい女優さんだったと思う。もしかしたら寅さんは、リリーの次にぼたんと所帯を持ちたかったのではないでしょうか。 (紀)

男はつらいよ知床慕情(第8作)
1987年/松竹/1時間47分
 
監督・原作・脚本=山田洋次
脚本=浅間義隆
撮影=高羽哲夫
音楽=山本直純
出演=渥美清、倍賞千恵子、三船敏郎、淡路恵子、竹下景子、すまけい
 
[解説]
 北海道の知床を舞台に三船敏郎と淡路恵子演じる熟年の恋をとりもつ寅次郎を描く。知床で開業する獣医(三船)はやもめ暮らしをしていたが、東京で結婚生活に破れた娘(竹下)が戻ってくる。この親娘と知り合った寅次郎は、この町のスナックのママ(淡路)と獣医の恋の橋渡しをしながら、獣医の娘に思いを寄せる。無骨な男を演じた三船敏郎が恋を告白するシーンが絶品である。

男はつらいよ寅次郎紅の花(第48作)
1995年/松竹/1時間50分
 
監督・原作・脚本=山田洋次
脚本=浅間義隆
撮影=長沼六男、高羽哲夫
音楽=山本直純、山本純ノ介
出演=渥美清、倍賞千恵子、浅丘ルリ子、吉岡秀隆、後藤久美子
 
[ストーリー]
 半年前神戸の瓦せんべいを送ってきたきり、音沙汰のない寅次郎を案じるくるまやの茶の間のテレビにある日大震災でボランティアとして活躍する寅次郎の姿が映ったことから物語は始まる。被災地の美しい女性に格別に親切にしていた寅次郎はまた、その女性のせいで神戸を離れたらしい。東京では今や寅次郎の一番の理解者である満男(吉岡)を、名古屋から泉(後藤)が重大な告白のために訪れていた。そして、やがて庵美大島で、寅次郎とあの懐かしいリリー(浅丘)と、満男、泉がそれぞれ再会することになるのだが……。
 
[コメント]
 これが寅さん最期の旅路になると一体誰が予想出来ただろうか。それは渥美清ご本人もわからなかったかもしれない。しかし、ここ数作は自らの病魔との闘いで常に爆弾を抱えた状態の体での撮影に臨んでいたという。いつ、この「男はつらいよ」がフイナーレを迎えてもいい、そんな強い覚悟が顔の表情に表われていたと言えるのは、渥美さんの死という事実を受け入れたうえでこの作品を観たからなのだろうか。もしも渥美さんがまだ健在だったら、この作品はあくまでも50作目という輝かしい記録への通過点的作品として、別段心に留まる作品にはならなかったはずだ。だが、神様だけはこの作品が最期だとピリオドをうった。そのために、寅さんには最愛のマンナであるリリーを、満男には運命の人である泉をこの作品で再び登場させたのだろう。寅さん映画ファン公認の2組のカップルは今後どう展開するのか……。そんな期待を私たちに持たせたままで幕を引くなんて、それは神様も相当意地悪というものでしょうが……。しかし渥美さんの最期はあまりに潔く、美しかった。<もう「車寅次郎」という重い鎧は下ろしていいんですよ。天国では「田所康雄」さんとして幸せにお過ごしください。有難うございました。>秋の青空にそっと手を合わせたい。 (亜)