戦後日本映画回顧 Part2

11月27日 「戦後日本映画回顧 Part2」 (やまばとホール)

伊豆の踊子
1963年/日活/1時間27分
 
監督・脚色=西河克巳
原作=川端康成
脚色=三木克巳
撮影=横山実
音楽=池田正義
美術=佐谷晃能
出演=吉永小百合、高橋英樹、大坂志郎、宇野重吉
 
[ストーリー]
 老教授(宇野)の回想は、40年前に遡る。旧制一高生(高橋)は伊豆への旅に出て、新緑の天城で旅芸人の一行と出会う。そのなかのひとり、薫(吉永)という16歳の踊り子の純真さに心をひかれる。彼らは下田まで2、3日の同行となるが、薫も一高生にほのかな思いを寄せる。しかし座長格のお芳は身分の差を考え、二人を引き離す。下田港の桟橋で一高生の乗った船に向かって、手ぬぐいをちぎれんばかりに振る、涙いっぱい目に浮かべる薫の姿があった。
 
[コメント]
 新緑の天城から下田港へと、こんな回想場面を重ね合わせた手法は決してめずらしいものではない。ただ、この作品の場合、第二次世界大戦をはさんで、身分差別が重くのしかかっていた時代を大戦後の解放感あふれる「現在」を通して描いているところが心に残る。旧制高校の生徒といえば帝国大学に進み、現在では考えられないような特権階級を約束された身分ではないだろうか。そして、画面に出てくる民衆の差別的な言動が、底辺に位置する踊り子との恋は殆どあり得ない時代状況であったことを物語っている。また、貧困から身売りさせられたのであろう若い娼婦の病死や、その仲間たちのしたたかな生き様の挿入は、踊り子・薫の将来を暗示するような描写である。「世の中にはね、どうしようもないってことがあるんだよ」と、言うお芳の台詞も哀しくひびく。今の憲法下では考えられぬことである身分差別の厳しい時代で、殆ど、叶わぬものとしか言い様のない10代の少女の思慕、恋心が余りにも憐れであり、清らかなところが伝わってくる。川端文学のなかで、「雪国」と並んでのこの名作が6回も映画化されたのは、それぞれの時代のなかでも消えることのない初恋を描いているからだろうか。 (き)

怪談
1964年/にんじんくらぶ/2時間41分
 
監督=小林正樹
原作=小泉八雲
脚本=水木洋子
撮影=宮島義勇
音楽音響=武満徹
美術=戸田重昌
出演=新珠三千代、三國連太郎、仲代達矢、岸恵子、中村賀津雄
 
[ストーリー]
 小泉八雲の原作を4部のオムニバス構成にしている。
 第1話「黒髪」 昔、京の侍(三國)が貧乏から抜け出すために妻を捨てて遠くの任地に行く。2度目の妻はわがままだったので、侍は別れた妻(新珠)を慕って京に帰ってくる。妻は荒れ果てた家で彼を待っていたが……。
 第2話「雪女」 木こりの巳之吉(仲代)が老人と森林へ行って吹雪で山小屋に閉じ込められる。その夜、巳之吉は老人が雪女(岸)に殺されるのを見る。雪女はこのことを他言せぬようにと言って去るが……。
 第3話「耳なし芳一の話」 昔、平家一門が滅亡した赤間ヶ関に平家物語の語り手である芳一(中村)という盲目の琵琶の名人がいた。芳一はなぜか毎夜、平家一門の墓の前で、平家物語を演奏していた……。
 第4話「茶碗の中」 関内という侍が、ある日、茶店で出された茶碗の中に、見知らぬ侍が不気味に笑っている顔を見た。関内はそれを一気に飲み干すが……。
 
[コメント]
 原作は、日本に帰化して小泉八雲と名乗り、日本文化を紹介したラフカディオ・ハーンが書いた有名な日本怪談の連作のなかから小林正樹監督は特に有名な「和解(黒髪)」「雪女」「耳なし芳一」「茶碗の中」の4話を選び出し、水木洋子がシナリオを書いたオムニバスの怪奇映画である。映画は恐怖の表現よりも、むしろ、この世のものならぬ耽美的な世界を描き出すことに狙いが絞られており、実に美しい幻想的な作品に仕上がった。小林監督の最初のカラー作品である。小林監督は色彩効果を最大限に活かすため、オール・セット撮影を敢行した。当時としては破格の製作費をかけてこの大作を作り上げた。特に「耳なし芳一」における境内のセットや壇ノ浦合戦の撮影には目を見張るものがある。また、「雪女」における空に浮かぶ不気味な象徴化された<眼>や、他のエピソードにおける人口的な色彩効果など、セット撮影ならではの映像化が行なわれている。単なる絵巻物的作品ではなく、人間性の不可思議さに迫ったものとしたところに小林監督の真骨頂がある。 (米)

太陽の王子ホルスの大冒険
1968年/東映動画/1時間22分
 
監督=高畑勲
原作・脚本=深沢一夫
作画監督=大塚康生
場面設計・原画=宮崎駿
原画=森康二
撮影=吉村次郎
音楽=間宮芳生
声の出演=大方斐紗子、平幹二朗、市原悦子、東野英治郎、構内正
 
[ストーリー]
 ホルス(大方)は人知れぬ北の浜辺で病弱な父を支えながら、元気一杯幸せに暮らしていた。そんなある日のこと、ホルスは謎の銀色のオオカミの一団に襲われるが、たまたまそこで昼寝を楽しんでいた岩男・モーグ(横内)に助けられる。そのとき、ホルスはモーグから名剣<太陽の剣>を譲り受け、「もし、おまえがその剣を使いこなすことが出来るときは、人々から太陽の王子と呼ばれ尊敬されるだろう」と、言われる。やがて「人間の住む世界に戻れ」という遺言をホルスに残し、父は他界する。ホルスは亡き父の遺言に従って、相棒の小熊・コロとともに新天地を目指し旅立ち、鍛冶屋のガンコ(東野)と村人たち、さらにはモーグや魔王の妹という謎の少女・ヒルダ(市原)の協力を得て、宿敵の魔王・グルンワルド(平)と対決する。
 
[コメント]
 この映画『太陽の王子ホルスの大冒険』はアイヌ伝承を下敷きにした深沢一夫の戯曲「チチサニの上に太陽」をもとにつくられ、高畑勲監督にとって記念すべき処女作にあたる。このとき高畑勲監督のもとで場面設計・原画を担当していたのが、今をときめく、あの宮崎駿監督その人だった。この『太陽の王子ホルスの大冒険』は、今日あのスタジオジブリで制作されているすべての作品のルーツであり、この作品にこめられたメッセージは、その後、形を変えつつも高畑・宮崎の両監督がスタジオジブリから世に送り出す数々の作品に受け継がれている。 (鴨)