現代日本をブッタ斬れ!!

11月25日 「現代日本をブッタ斬れ!!」 (やまばとホール)

愛の新世界
1994年/Gカンパニー、東亜興行/1時間55分
 
監督=高橋伴明
原作=島本慶、荒木経惟
脚本=剣山象
撮影=拓野直樹
音楽=山埼ハコ、かしぶち哲郎
美術=望月正照
編集=菊池純一
出演=鈴木砂羽、片岡礼子、萩原流行、武田真治
 
[ストーリー]
 夜の街を颯爽と歩く彼女の名はレイ(鈴木)、SMクラブの女王様だ。ボンテージ衣装を身に付けたレイのお仕置きに今日もお客が悲鳴を上げる。昼間のレイは小劇団の女優。稽古場での劇団員との日替わリSEXや、複数の恋人に別々の誕生日を祝ってもらうこと、女王様を気高く演じることは、彼女にとつては日常の一部に過ぎない。一方、街で知り合つたホテトル嬢のアユミ(片岡)は童顔を武器に「スケベなおっさん」からチップを多めにもらう。「お仕事」に対して屈託のない彼女たちの「なんとなくだけど面白い」日常をカメラは淡々と追ってゆく.そこには夜明けの246号線を全力疾走したり、早朝の海に素っ裸で飛び込んだりする、無軌道で動物的な女たちの、乾いた明るさを見ることが出来る。
 
[コメント]
 朝の綺麗な映画である。夜の仕事を終えて朝まで遊び、始発の電車で家に帰る。シャワーを浴びて窓際に立つ、化粧っ気のない鈴木砂羽の表情がいい。まるで無垢な少女のようで、初めて彼女を美しいと思つた。この映画の下敷きとなるのは「愛の新世界」という一冊の「風俗嬢ルポ写真集」(著・島本慶/写真・荒木経惟)だ。映画では、あるSMクラブで働く女性「女王様」にスポットを当て、彼女の日常をドキュメントタツチで描き出す。その際、映像の合間に突如現われるのがアラーキーによるモノクロ写真だ。動画と静止画の融合という試みによつて、多くを語らない主人公レイの心象風景へのイマジネーションが喚起される。ところで本編を貫くエネルギーの源は、ひとえに鈴木砂羽の存在感だろう。彼女は515人の応募者のなかから選ばれたまったくの新人ながら、風俗業に携わり自由奔放に生きる主人公レイを等身大の現代女性として見事に体現している。今後が楽しみな23歳である。 (志)

トラブルシューター
TORUBLE WITH NANGO
1995年/パンダイビジュアル/1時間39分
 
監督・脚本=原田眞人
撮影=柳島克巳
音楽=川崎真弘
美術=磯田典宏
編集=阿部浩英
出演=的場浩司、森本レオ、塩屋俊、麻生肇
 
[ストーリー]
 南郷(的場)は女性問題から刑事を辞めた後、演歌歌手としてドサ回りをしていた。そんなある日、偶然再会した叔父の匠三(森本)とともにヤクザの取り立てに苦しんでいる女性の相談にのり、組に乗り込んでもめごとを解決する。これで味をしめた二人はトラブルシユーターを稼業としてはじめる。暴力団新法施行のご時勢に乗って仕事は順風満帆に見えたが…。
 
[コメント]
 原田監督の前作「KAMIKAZE TAXI」と本作で共通して言えるのは、登場人物群に底知れぬ生命力を感じることである。「ナニジン?」と尋ねられた中国人ハーフの女性が「私はアジア人よ」と胸を張るシーンに垣間見られるように、人種の坩堝アメリカでの生活が長い監督が、単一民族国家<日本>の島国根性をたたきのめすような無国籍映画を作りはじめたことに起因していると思う。「月はどっちに出ている」でもそうだったが、アジアの視点から見下ろすと、今の日本もすこぶる刺激的で面白い。また、原田監督作品を語るときに外せないのが川崎真弘の音楽だ。「KAMIKAZE TAXl」ではインディオの民族音楽がアンデスの渓谷を吹き抜ける疾風のように現代社会の問題を次々と巻き込んでいったが、本作は一転して透明惑溢れる旋律で不条理な社会の仕組みにハマッテしまった男たちの悲哀と情感を鮮やかに浮彫りにしている。過去の記憶が消えていく匠三を演じる森本レオのとぽけた味わいと相まつて、なんとも不思議で心地好い余韻を残す快作で為る。 (淳)

エレファントソング
1994年/WOWOW、ヒルヴィラ/1時間
 
監督・脚本=利重剛
脚本=御法川修
撮影=小倉和彦
音楽=SION
編集=掛須秀一
出演=松田美由紀、三谷昇、寺島進、高村祐穀
 
[ストーリー]
 喫茶店のウエイトレスをしている加奈子(松田)33歳、ある日馴染みの客の初老の男・下月(三谷)が死んだという知らせを受ける。「死んだ時くらい何かの足しになりたい。せめて土に還してほしい」と言つていた下月との“約束”を果たすため、加奈子はそこに居合わせた花屋の真鍋(寺島)と、彼の配達用トラックで下月の死体を運びだし、花の溢れるトラックの荷台にそつと寝かせる。加奈子の一人息子の進(高村)も便乗して、伊豆山中へ土地探しの旅は始まった。途中、加奈子と真鍋はお互いに自分のことを話し始める。昔果たせなかつた約束、果たすべき約束、そして、生きる意味。それぞれの思いは、下月との約束に託されていった。
 
[コメント]
 森の奥に、死に際を決して見せない年老いた象が集まる秘密の墓場があるという。ビルの警備員をしていた下月は屋上からさらに見上げる高層ピル群がその象の墓標のように見えるという。利重監督はその逸話を軸に、自身と同じ30代の<生の意味>を描いた。多くの映画が“幸せになること”をテーマにしているが、この映画はそれより幾分ささやかに“生きていること、頑張ること”を領しく措いている。それはささやかである分ストレートに、押しつけがましい所なく伝わってくる。随所にちりばめられた幸せな風景。この映画も、利重監督念願の新作(そして大傑作!)「BeRLiNjもそうだった、映画を観終った後、ほんわかと湧き出てくる元気。世の中、人から頑張れつて言われると、うるさいな、あんたなんかに言われたくないよ、なんて思ってしまう節があるけど、こういう映画に頑張れって言われると少し本気に頑張ってみたくなる。ラスト、森の奥に見つけた、死体を埋める場所から見える海は、都会の高層ビルから開かれた窓のようで美しかつた。きっとこれって、癒しの映画だと思う。 (長)

日本製少年
1995年/M&MFILMS、「日本製少年」製作委員会/1時間45分
 
監督・脚本=及川中
撮影=山本英夫
音楽=二見裕志、WORLD FAMOUS
美術=横倉正志
編集=岡田輝満
出演=大沢樹生、嶋田加織、鈴木一功、庄司真理
 
[ストーリー]
 4年前に父親を殺そうとした過去をもつ田中(大沢)は、職もなく、社会から狐立してアパートの一室で生活している。ある日、池袋の駅前でティッシュ配りをしている薫(嶋田)に出会い、強く惹かれる。薫は心臓の病気で胸にベースメーカーを埋め込んでおり、その電池が切れた時死が訪れることを知りながら、生きる希望が持てないため交換をこばんでいる。薫のティッシュ配りのバイトの事務所はトルエン売買の障れ簑に使つていることがわかるが、田中もそこでのバイトをはじめる。薫からオモチヤのように渡された銃を預かつた田中は、その銃口を見ず知らずの少年に向けていた…。
 
[コメント]
 何を目標にしていいのかわからない無閑心、無感動な現代の若者たち。心臓にベースメーカーを埋め込み、鼓動がどきどきすることなどない薫と、父親をゴルフクラブで殴りつけたことのある田中の二人に象徴させたことが、この映画を成功させた大きな要因だ。今の若者を十把一束にして語ることは出来ないし、これが現代社会の一断面に過ぎないことは間違いない。しかし、オウム真理数騒動の話題が、半年経った今でも絶えないのは、この事件が一過性のものでないことに誰もが気付いていることに他ならない。いつ再び若者のエネルギーがよじれた方向で発揮されるかわからない。戦後50年、平和で豊かなはずの今の日本社会はそんな危険を常に孕んでいる。世の中に醒め切つた口跡と視点の定まらない表情でこのテーマを体現した大沢樹生と嶋田加織の演技は特筆に値する。東京湾湾岸のさぴれた風景がここで描かれる若者の心象風景と重なって、いつまでも心に残った。 (淳)