日本映画をどうするのか

10月11日 「日本映画をどうするのか」 (やまばとホール)

12人の優しい日本人
1991年/ニュー・センチュリー・プロデューサーズ、サントリー、日本テレビ放送網/1時間56分
 
監督=中原俊
脚本=三谷幸喜と東京サンシャインボーイズ
撮影=高間賢治
音楽=エリザべ一夕・ステファンスカ
美術=稲垣尚夫
出演=塩見三省、相島一之、上田耕一
 
[ストーリー]
 もし日本に陪審員制度があったらという仮定に基づき、陪審を通して12人の陪審員の性格を浮彫りにする室内劇。トラックに轢かれた男の死は別れた妻の犯行か、という陪審は全員元妻の無罪との評決で一瞬の内に終わったかにみえた。しかし、せっかくだからもう少し議論を戦わせたいと言う一人の個人的希望から陪審は振り出しに。議論を重ねるうちに有罪、無罪、評決不一致と評決が大きく揺れ動くが……。
 
[コメント]
 中原俊監督の代表作『櫻の園』同様、美しいピアノの旋律が優しく流れる導入部分はその後複雑に織りなされる物語をより強調されると共に何かが始まる予感を演出している。赤く縁取られた丸の中に縦書きにされたタイトルが下から昇り、やがて画面中央で静止して日本の象徴とされている日の丸をイメージさせ、登場人物が日本人であることを強く印象付けている。事件を追いながら登場人物を精神的に追ってゆく後半部分は、事件を辿りながら人間を辿っていくかのように12人の陪審員がそれぞれの日本人像を演じている。日本人の内面をうまく描いた娯楽作品である。 (櫻)

お引越し
1992年/読売テレビ放送/2時間4分
 
監督=相米慎二
原作=ひこ・田中
脚本=奥寺佐渡子、小此木聡
撮影=栗田豊通
音楽=三枝成彰
美術=下石坂成典、山崎秀満
出演=田畑智子、桜田淳子、中井貴一
 
[ストーリー]
 小学校六年生のレンコ(田畑)は、父親(中井)が家を出て行ってもすぐに母親(桜田)と仲直りして戻るものと信じていた。寄りを戻そうとしない2人を見て、レンコは仲の良かった頃の家族に戻そうとあれやこれや画策するがすべて裏目に出てしまう。自分1人で生きていかなければならないと悟った時、レンコは幻想的な旅に出る。
 
[コメント]
 ヒロインのレンコ(田畑智子)がいい。「あたしは父さんと母さんがケンカしても我慢したよ。なのに、なんで父さんたちは我慢できひんの?」
 背筋をピンと張り京都弁の響き。あの無垢な瞳で見つめられ問われたら嘘やごまかしは絶対に通用しないだろう。いままさに「お引越し」しつつある父、母と共に暮らし始めたレンコの心は激しく揺れ動く。両親を和解させるため、かつて楽しかった懐かしい琵琶湖畔の家族旅行を試みるけなげなレンコをみているとなんとも愛しくなってくる。インドの秘境から戻って来たような父(中井貴−)と自立志向の強い母(桜田淳子)。愛し合い結婚し、娘が生まれ幸せな日々。けれどそれはいつしか彼方へ……。なぜ? どうして? 父だって母だってつらく哀しいのだ。そんな二人の演技の上手さも感心してしまう。相米監督は最後に、火の熱狂へ、山の静謐へ、水の輪廻へと、レンコが孤独に彷徨いながら「少女」から「女」へ「お引越し」する姿を描いた現実と幻想のシーンが忘れられない。 (祥)

ヌードの夜
1993年/ニュー・センチュリー・プロデューサーズ、サントリー
 
監督・脚本=石井隆
撮影=佐々木原保志
音楽=安川午朗
美術=山崎輝
出演=竹中直人、余貴美子、根津甚八
 
[ストーリー]
 石井隆のライフワーク「天使のはらわた」シリーズの名実が復活した1作。
 故郷の幼馴染み行方(根津)に脅かされ続けてきた名実(余)は、青春のすへてを失ったこの関係を断ち切ろうとホテルの一室で行方を殺害する。名実は代行屋稼業を営む村木(竹中)に殺人の罪をがぶせ、死体の処理を任せて姿をくらますが、村木は名実を探し出す。何故だか名実を恨めない村木は、行方の弟分に襲われた名実を助けるため、ポケットにコルトをしのばせて名実のもとに駆けつける。