特集−監督:鈴木清順の世界

10月8日 「特集−監督:鈴木清順の世界」 (やまばとホール)

結婚
『陣内・原田両家篇』
1993年/セシール/2時間17分(三部作)
 
監督=鈴木清順
脚本=浦沢義雄
撮影=藤沢順一
音楽=井上尭之
美術=池谷仙克
出演=陣内孝則、原田知世、原田貴和子
 
[ストーリー]
 『結婚』は結婚をめぐる3つの物語のオムニバス映画で、清順監督の『陣内・原田両家篇』はその第1話にあたるスラップスティック・ラブコメディである。
 売れない俳優竹内(陣内)は、思いがけなくお嫁さん候補No.1スターの花村(貴和子)から結婚を申し込まれる。竹内は婚約した後、花村の目的が不倫を隠すための偽装結婚だと知るが取り返しがつかない。結婚式当日、竹内は、婆を見せない花村の代わりに以前から竹内を想っていた岩下(知世)を代役に立てて結婚式を行なう。
 
[コメント]
 結婚に至る出会いを描く3人の監督の競作。結婚についての多様な側面を描き、人を愛することと、結婚というセレモニーとは全く別のものであることがよくわかる。
 結婚の打算と見栄のはるか向こうに“愛”が存在する。結婚とは愛のゴールではなく、愛へのスタートなのかもしれない。傷つき、血を流し、涙で何も見えなくなるような、その苦い味を知った者だけが、至福の愛を味わえるに違いない。 (志)

木乃伊(ミイラ)の恋
1970年/円谷プロ/16mm/56分
 
監督=鈴木清順
原作=円地文子
脚本=田中陽造
撮影=森喜弘
音楽=冨田勲
美術=鈴木儀雄
出演=渡辺美佐子、浜村純、川津裕介
 
[ストーリー]
 山城の国の、とある村里でのこと。一軒家の庭先の地面の下から鉦の書が聞こえる。村人を集めて掘り起こしてみると、木乃伊が手だけを動かして鉦を叩いている。ありがたいことと、木乃伊を家に入れ、身ぎれいにし、食物を与えると木乃伊は精気を取り戻す。だが、生前の反動からか木乃伊は性欲のみを強く持ち、問題を起こすため村人から追われてしまう。という『春雨物語』を国文学者布川(浜村)から口述記録していた笙子(渡辺)は、戦時中、結婚したばかりの夫を防空壕で亡くしていた。布川から『春雨物語』は実話だと聞かされ、笙子は夫を亡くした防空壕の跡を訪れる。
 
[コメント]
 昭和45年、円谷プロとフジテレビで制作され、当時のテレビ映画としては、あまりにも過激な題材と描写のために放映は昭和48年まで持ち越されました。その間、熱狂的な愛好家によって、色々な小劇場で上映され、大いに話題を呼んだ「恐怖劇場アンバランス」シリーズの中の1本です。物語は——円地文子の名作『二世の縁・拾遺」の原作から田中陽造が脚本化し、すでに当時から日本映画界で注目されていた、巨匠・鈴木清順監督の日活を離れての第1回作品でもあります。配役も、渡辺美佐子・川津裕介・浜村純の面々に、監督で、名シナリオライターでもあり、今春惜しまれつつ亡くなった、大和屋竺の定助という異色のキャスティングで、絢爛たる色彩と、冨田勲の音楽をバックに展開されるドラマです。果てしない人間の<性>への執念を描き尽くした格調高い傑作です。 (熊)

ツィゴイネルワイゼン
1980年/シネマ・プラセット/2時間25分
 
監督=鈴木清順
脚本=田中陽造
撮影=永塚一栄
音楽=河内紀
美術=木村威夫、多田佳人
出演=大谷直子、原田芳雄、大楠道代、藤田敏八
 
[ストーリー]
 元独語教師の中砂(原田)は、浜辺にあがった女の水死体の殺人犯にされそうになったところを友人の独語教師青地(藤田)に救われる。その後、青地は中砂の留守宅を訪れ、その妻・園(大谷)と怪しげな関係をもつ。一方、中砂は青地の留守宅を訪れ、その妻・周子(大楠)の裸体を抱く。この奇妙な2つの三角関係が真実か幻想か不明のまま、園も中砂も死んでいく。しかし、夜毎死んだはずの父と話しているという中砂の幼い娘は、生きているはずの青地にむかって「おじちゃんのお骨を頂戴」と手招きする。
 
[コメント]
 冒頭、蓄音機からサラサーテ自身の演奏による「ツィゴイネルワイゼン」が流れるが、演奏中に意味不明の言葉が聞こえる。「一体、何をしゃべっているのか?」という小さな疑問から得もいわれぬ不思議な世界に引き込まれていく。何が真実で何が嘘なのか、誰が生きて誰が死んでいるのか、すべてが謎につつまれたまま観客は結論付けることが許されない空間に放り出される。だが、乱れ散る夜桜に象徴される圧倒的な美術の美しさを前にすると、「こんな嘘ならだまされてみたい」と、その空間に泳がされることに心地好く酔わされてしまう麻薬のような魅力をもった作品である。キネマ旬報誌が行なった80年代の日本映画のベストテンで、ベスト1に輝いた映画史に残る傑作。 (淳)

東京流れ者
1966年/日活/1時間37分
 
監督=鈴木清順
脚本=川内康範
撮影=峯重義
音楽=鏑木創
美術=木村威夫
出演=渡哲也、二谷英明、松原智恵子
 
[ストーリー]
 解散した倉田組の元組長を親のように慕う“不死鳥の哲”(渡)は、元組長の罪をかぶって東京から雪国、そして九州へと流れていく。しかし、借金に追いつめられた元組長は哲を裏切り、哲に殺し屋を仕向ける。それを知った暫は、拳銃に怒りをこめて東京に舞い戻る。
 
[コメント]
 貨物車に背中をもたれ太陽の光にあえぎながら「もう1度頼む、俺を怒らせないでくれ」というファーストシーンから、「流れ者には女はいらねえ」と再び東京から流れていくラストシーンまで、“不死鳥の哲”こと渡哲也のダンディズムが満喫できる一作。一方、真っ白なバックの色が、登場人物によって青色や黄色に変わったり、殺しの場面では真っ赤に染まったりと清順監督の色彩に対する美学が全編に貫かれており、異色痛快アクション映画に仕上がっている。数ある清順作品の中で、この作品が海外で一番高い評価を受けているというのも嬉しい限りだ。 (淳)