フォーラム企画・おすぎ特選映画シアター

11月22日 「フォーラム企画・おすぎ特選映画シアター」 (やまばとホール)

フィッシャー・キング
THE FISHER KING
1991年/アメリカ・トライスター/2時間17分
 
監督=テリー・ギリアム
脚本=リチャード・ラグラヴェネス
音楽=ジョージ・フェントン
撮影=ロジャー・プラット
出演=ロビン・ウィリアムズ、ジェフ・ブリッジズ、アマンダ・プラマー
 
[コメント]
 タイトルの「フィッシャー・キング」は聖杯伝説で、聖杯の守護者だったとされている。“聖杯”とは、キリストが最後の晩餐で使用し、十字架にかけられた後のその血を受けたと伝えられているもの。その杯には不思議な力があり、現在でもその探求に人生を捧げている人がいるという。
 ジャックはニューヨークのD・J、過激なトークが売りもの。不用意な言動がもとで、すべてを失う。パリーは元中世史の教授、3年前ある悲劇的事件に見舞われてから人が変りホームレスとなった。心に深い傷を負った男同士がニューヨークの底辺で出会い、奇妙な友情に結ばれた‥…。マスメディアの恐怖、あふれるホームレスという社会的テーマにユニークな中世的志向を加え、独自の幻想的映像を展開した感動作。(1991年度ヴェネチア国際映画祭・銀獅子賞受賞) (米)

ウルガ
URGA
1991年/フランス/1時間59分
 
監督=ニキータ・ミハルコフ
脚本=ニキータ・ミハルコフ、ルスタム・イブラギムベーコフ
音楽=工ドワルド・アルテミエフ
撮影=ヴィレン・カルウタ
出演=バヤルト、バドマ、ボヤンヒシゲ、ウラジーミル・ゴストウーヒン
 
[コメント]
 “ウルガ”とは、モンゴルの遊牧民が馬を捕獲するのに用いる道具の名で、これを草原に突きさしておくと、その下で交わされる“恋人たちの情事の邪魔をするな”というサインになる。
 旧ソ連邦の映画界にあってユニークな存在であるニキータ・ミハルコフが前作のイタリア映画「黒い瞳」以来5年ぶりに撮ったフランス映画である。
 これまでの都会的で知的センスあふれる作風から打って変って、内モンゴルの大草原にカメラをすえて、自然の営みとともに生きる羊飼い一家の純朴さを描く中に、今日的テーマを織りこんで文明批評を試みている。
 主人公の純朴さがひき起す都会での戸まどいのエピソードに監督の思いがこめられている。特筆すペきは、子供たちの表情のかわいさ。(1991年度ヴェネチア国際映画祭・金獅子賞受賞) (米)

羊たちの沈黙
THE SILENCE OFTHE LAMBS
1991年/アメリカ・オリオン/1時間58分
 
監督=ジョナサン・デミ
原作=トマス・ハリス
脚本=テッド・タリー
音楽=ハワード・ショー
撮影=タック・フジモト
出演=アンソニー・ホプキンス、ジョデイ・フォスター
 
[コメント]
 連続猟奇殺人犯、バッファロー・ビル、彼には、病院で性転換手術を数度断わられたという情けない過去がある。モロッコヘ行けばいいものを、と少々同情しつつ見ていたのだが、犯人が自室で鏡を前に、全裸で踊るシーンがあった。甘いPOPなミュージックをバックに、パンク・スタイルでくねくねと踊り続ける姿は強烈で、それはひたすら自己愛にのめり込んでいる、人に心を閉ざした孤独な青年の姿、そのものだった。生贄を料理する喜びの前で、一挙に表出される彼の陰性のエネルギーは、他者に対して表現手投を持たない。唯一、自己に対してのみそれは払われる。即ち、「自己存在の証」としての聖なる儀式として。
 バッファロー・ビルは、結局、心を閉ざしたまま、生を終える。一方、レクター博士の方は、食人肉嗜好という異常な精神の持主ではあるが、クラリスとの別れのシーンで、一瞬、人間臭さがチラリと見えた。博士が、彼女に、スケッチ・ノートを渡す時、スルリと彼女の指をなぞるのだが、この行為の中に、博士の言い表すことのできない気持が含まれているように私には見えた。人を人として見れた、博士の事件後の初めての気持ちのあらわれではないだろうか? クラリスは、そんな博士との対話の中で、彼女自身の過去の暗部に気付くのだが、事件解決後の今、今度は彼女一人で、自身の暗部に再対面することになるだろう。
 羊たちの沈黙は彼女自身の手によって破られなければならない。 (範)