日本の巨匠たち

11月28日 「日本の巨匠たち」 (やまばとホール)

真昼の暗黒
1956年/現代ぶろ
 
監督=今井正
脚本=橋本忍
撮影=中尾駿一郎
出演=草薙幸二郎、左幸子、矢野宣
 
[コメント]
 戦後の冤罪でよく知られた八海事件を告発した弁護士正木ひろしの原作「裁判官」の映画化。係争中の裁判を正面から批判したものとして、大きなセンセーションを呼んだ。映画は被告の一人が「お母さん、まだ最高裁があるんだ」と絶叫するところで終わっているが、裁判は三たび最高裁に持ちこまれ、映画の主張どおり4被告の無罪が確定した。
 この映画が人権擁護に果たした役割は大きく、説得力のある橋本忍の脚本の力である。

手をつなぐ子等
1948年/大映京都
 
監督=稲垣浩
脚本=伊丹万作
撮影=宮川一夫
出演=笠智衆、杉村春子、徳川夢声
 
[コメント]
 原作は、特異児童の教育現場に立った教師であり、その分野の研究家でもある田村一二のルポルータジュである。映画の中で、松村先生は「子どもを育てるのに理屈はいらぬ、ただ大きな愛情が必要なのだ」と説き、特異児童である中山寛太も普通学級で教育を受ける。いま“学歴社会”“能率主義”の世の中で、見失われがちな“教育”の原点がここにある。
  ※特異児童=知能遅滞児童

おとうと
1960年/大映京都
 
監督=市川崑
脚本=水木洋子
撮影=宮川一矢
出演=岸恵子、川口浩、田中絹代
 
[コメント]
 幸田文の原作を水木洋子の脚色で映画化、高い評価を得た市川崑の代表作。片足を病み、後妻というコンプレックスを強く抱いている母。作家である父は、その母を扱いあぐねている。この父母の間で、愛を与えられず不良化していく弟と、その弟をかばい、愛情を注ぐ勝ち気な姉を軸に物語は進む。
 恋人同士もかくやの美しい姉弟愛を、市川監督はさらりとハイレベルな映像感覚で仕上げている。瑞々しいカメラワークもいい。

女の園
1954年/松竹大船
 
監督・脚本=木下恵介
撮影=桶田浩之
出演=高峰三枝子、高峰秀子、岸恵子
 
[コメント]
 阿部知二の「人工庭園」の映画化。良妻賢母型女子教育を理想とする京都の名門女子大学を背景に、厳格な校則に縛られて精神錯乱状態に陥り、ついに自殺する女子学生及び、そのグループの姿が描かれる。内容は学園内の自由、人権の主張の問題と、女主人公の家庭及び恋愛の問題の二つにわかれ、その両方とも秀れた描写がおこなわれた。この頃から全国的な学観閲争が広まりつつあった。その予兆的作品。田村高廣がこの作品でデビュー。

近松物語
1954年/大映京都
 
監督=溝口健二
脚本=依田義賢
撮影=宮川一夫
出演=長谷川一夫、香川京子、南田洋子
 
[コメント]
 近松門左衛門の浄瑠璃「犬経師昔暦」に井原西鶴の「好色五人女」の中の「おきん茂右衛門」の話を付け加えて構成されている。
 俗に「おさん茂兵衝」として知られるこの物語は、町家の若い妻と手代との駈け落ちを扱った点で姦通ものとみられているが、ありきたりの姦通ものとちがって、のっぴきならぬ筋道をたどって、あくまでも受身に立って罪を犯すことになる点を強調して、封建制の悲劇としてこれを描き、劇の奥行を深くした。