在日のありようはどう変遷したか

11月19日 「在日のありようはどう変遷したか」 (パルテノン多摩小ホール)

●Time Table●
11:30−13:31
14:10−16:09
19:10−20:00

20:20−21:43
フライ,ダディ,フライ
パッチギ!
血と骨(R15)
トーク ゲスト:梁石日氏(作家)、李鳳宇氏(プロデューサー)
    司会:松江哲明氏(映画監督)
IDENTITY 特別版(R18)

フライ, ダディ, フライ
2005年/『フライ・ダディ・フライ』製作委員会製作/東映配給/2時間1分
 
監督=成島出
原作・脚本=金城一紀
撮影=仙元誠三
美術=小川富美夫
音楽=安川午朗
出演=岡田准一、堤真一、松尾敏伸、須藤元気、星井七瀬
 
フライ・ダディ・フライ
© 2005「フライ, ダディ, フライ」製作委員会
 
[ストーリー]
 平凡な中年サラリーマンの鈴木(堤)は、高校ボクシングチャンピオンの石原(須藤)に娘を暴行され、その復讐のため包丁を持って彼の高校に乗り込む。だが、学校を間違えた挙句、居合わせた高校生、朴舜臣(岡田)に倒されて気絶してしまう。目が覚め、舜臣と仲間たちに事情を話した鈴木は石原と素手で対決することに。そして舜臣が教育係となり、猛トレーニングが始まった……。
 
[コメント]
 古今東西、映画には“闘う男”がいっぱいだ。原始人から遺伝子レベルでそうなっているらしい。しかし今、男の闘う本能は限りなく薄まってしまった。その1人だったが、愛娘を暴行されて眠っていた本能を呼び覚まされることになる。彼の指南役の舜臣は、高校生でこの上ない強さを身に着けた男。彼はなぜそこまで強くなったのか? ならなければいけなかったのか?
 彼が語る幼いころの記憶……リストラされ、外国人労働者を逆恨みした日本人の男が、偶然彼の家の表札を見て家に押し入り、彼を刺したのだ。ショックで動けない母、彼は傷つきながら自分で救急車を呼んだという。自分と母を守るため、舜臣はブルース・リーのように強くなろうと決意したのだ。
 トレーニングを重ねるうちに鈴木が舜臣に対して持ち始めた父性愛にも似た感情を、徐々に舜臣が受け入れてゆくところにほろりとさせられる。ワルガキグループ“ザ・ゾンビーズ”の、したたかにして健全な遊び精神が愉快である。 (穂)

パッチギ!
2004年/『パッチギ!』製作委員会製作/シネカノン配給/1時間59分
 
監督・脚本=井筒和幸
プロデューサー=李鳳宇
脚本=羽原大介
撮影=山本英夫
美術=金田克美
音楽=加藤和彦
出演=塩谷瞬、高岡蒼佑、沢尻エリカ、揚原京子、真木よう子、オダギリジョー
 
パッチギ!
 
[ストーリー]
 1968年京都。高校2年の康介(塩谷)は、朝鮮高校に通うキョンジャ(沢尻)に恋をするが、彼女は番長アンソン(高岡)の妹だった! パッチギはハングルで突き破る、乗り越えるの意味。頭突きの意味もある。恋と友情と殴り合い、涙と笑いと感動の青春群像劇。
 
[コメント]
 作品の1シーン、在日の少年が死亡するが玄関が狭くて棺が通らず、友人がハンマーで入口を叩き壊す。この映画を製作した「シネカノン」社長・李鳳宇氏の体験をもとにしている。李氏は京都で生まれ育った。井筒監督は奈良で生まれ、「日本は日本人だけでできてるわけじゃない」と肌で感じながら育った。康介のキョンジャへのまっすぐな思いはどうにか彼女に伝わって交際が始まり、在日社会にも徐々に受け入れられたかに見えた時の、突然の仲間の死だった。その葬儀の場で在日の老人が語る歴史の真実。日本人が他民族に行った国家的な苛烈な“拉致”。「帰れ」と言われ、返す言葉もなく立ち去る康介。それでも康介とキョンジャは想いを育み続ける。国境の川に橋をかけ渡すように。背景には70年安保に向って揺れ動く時代があり、イムジン川の歌とともにスクリーンに蘇る。李氏はソウルの明洞に映画館を開き、5スクリーンのうち1つは日本映画専門にした。最初の上映は『パッチギ!』。韓国の人々はどのようにこの映画を観たのか、ゲストとして来られるのでお聞きしたく思う。 (穂)

血と骨
2004年/『血と骨』製作委員会/松竹、ザナドゥー配給/2時間24分
 
監督・脚本=崔洋一
原作=梁石日
脚本=鄭義信
撮影=浜田毅
美術=磯見俊裕
音楽=岩代太郎
出演=ビートたけし、鈴木京香、新井浩文、田畑智子、オダギリジョー、松重豊、国村隼
 
血と骨
 
[ストーリー]
 時は1920年代、出稼ぎ労働者として済州島から大阪へやってきた金俊平(ビート)は、さまざまな苦境にあいながらも、自分の腕と知恵と強靭な肉体だけをたよりに生き抜き、事業を成功させて巨万の富を得た。しかし、その並外れた凶暴さと強欲さは、彼の家族やその周囲の人間たちを渦のように巻き込み、数奇な運命をたどることに。生涯誰にも心を開かずに、孤独のなかに生きた男はその終末に何を見たのか……。
 
[コメント]
 凶暴で激しく荒々しい金俊平を演じるビートたけしの圧倒的な迫力と存在感に思わず息をのみます。おそらく他の誰が演じるよりも、生々しく、凶暴で、リアルであるに違いありません。彼が発する人間の欲望の奔流が、周りの人間を巻き込んでいくように、観ている私たちまでその世界に巻き込んでゆきます。そして、全編にわたるそのどろどろとしたエネルギーのなかに、脇を固める鈴木京香や田畑智子、オダギリジョーらが確固たる存在として光っています。これほど的を射たキャスティングが他にあるでしょうか。また、集落の町並みから工場の小道具にいたるまで徹底的に当時を再現したセットや、端役に至るまで綿密な時代考証を反映させた衣装など、その当時を知らなくても実感できるこだわりようです。これだけのスケールの物語を一部の隙もなく作り出したこの作品は、まさに崔洋一監督の渾身の一作と言えるでしょう。 (斉)

IDENTITY 特別版
2004年/HMJM(ハマジム)製作/1時間23分
 
監督・構成・撮影=松江哲明
プロデューサー=カンパニー松尾
撮影=村上賢司
音楽=藤野智香、河野建
 
IDENTITY 特別版
 
[松江哲明監督コメント]
 数年前まで僕は「もう在日ネタはやらない」と言っていた。過去の歴史を追うのは性に合わないと思っているし、いわゆる「悲しい過去」を一方的に聞かされるのはしんどい。それでも誰かに「数十年後には在日コリアンはいなくなる」と言われた時、一瞬だけ「いなくなる」って言葉に反感を覚え、その直後に「それなら撮らないとな」と思った。それも出来るだけ同世代を。一世のおじいさん、おばあさんではなく、三世とか四世といった若い世代を。
 だから正直、「在日コリアンのAV女優、男優」なら誰でもよかったのだ。絶対に三世の相川ひろみで、朝鮮籍から韓国籍に変えた二世の花岡じったである必然性はなかった。でもその緩さがよかったな、と思う。雨の海岸とそこにたたずむ背中、尾道のスナック街の路地、鶴橋のキムチ屋。緊張感とは無縁なただ、 そこにある風景を撮りつつ、交わされる会話。特に花岡さんの「在日って中途半端な人が多いんだよ」という言葉は今でも忘れられない。
 特別永住権を持つ在日コリアンは年々減っている。だからと言って「いなくなる」ことはないと思う。僕は5歳で帰化をし、国籍では「日本人」となったが、「在日」という意識が消えることはない。僕だけではない、この作品に登場する皆がそうだと思う。
 「今の「在日」が撮りたい。それも性を生かせるAVで」そんな考えから始まった『IDENTITY』。僕は今でもカメラの前で食べ、走り、セックスした彼、彼女らとの時間を思い出す。その時に共有した思い、を忘れないように。

●ゲストの紹介
梁 石日(やん そぎる)氏

 1936年大阪市生まれ。済州島出身。高校卒業後、タクシードライバーなど多くの職に就く。40代半ばで発表した「タクシードライバー日誌」は注目を集め、その後93年に発売した「タクシー狂想曲」は、崔洋一監督によって映画化(『月はどっちに出ている』)され映画賞を総なめにした。その他の著書に、「族譜の果て」、「夜の河を渡れ」、「夜を賭けて」、「雷鳴」、「Z」など。実在の父親をモデルにした「血と骨」は、98年に第11回山本周五郎賞受賞。31万部を売るベストセラーになった。
 
李 鳳宇(り ぼんう)氏

 1960年京都市生まれ。朝鮮大学外国語学部卒後フランス留学。89年配給会社シネカノンを設立。94年より劇場経営にも着手。製作、配給、興行を一貫して行う独立系の映画会社 として活躍を続けている。
 主な配給作品に、『デカローグ』『ケス』『ブラス!』『永遠のモータウン』などの欧米作品の他、日本国内で130万人を動員した『シュリ』をはじめ、『JSA』『マラソン』などの韓国映画を次々に配給。邦画でも『のど自慢』『誰も知らない』『パッチギ!』などの話題作を企画・配給。92年に初プロデュースした『月はどっちに出ている』は、国内外の50以上の映画賞を獲得して大ヒットした。
 
司会:松江 哲明(まつえ てつあき)氏

 1977年、東京生まれ。99年、日本映画学校卒業制作作品として『あんにょんキムチ』を監督。韓日青少年映画祭監督賞、山形国際ドキュメンタリー映画祭アジア千波万波特別賞、NETPAC特別賞などを受賞。以後の監督作に「ほんとにあった! 呪いのビデオ」シリーズ、『2002年の夏休み ドキュメント沙羅双樹』。舞台脚本作に「ハルモニの夢」。また役者としての出演作に『ばかのハコ船』(山下敦弘監督)、『手錠』(サトウトシキ監督)などがある。最新作は『IDENTITY』(ドイツシネアジア映画祭04、山形国際ドキュメンタリー映画祭05他にて上映)。
※松江哲明ブログ http://d.hatena.ne.jp/matsue/