世界に羽ばたく映像作家

11月29日 「世界に羽ばたく映像作家」 (パルテノン多摩小ホール)

●Time Table●
12:00−13:39
14:20−15:37
16:00−17:32
17:50−19:05
沙羅双樹
六月の蛇
アカルイミライ/海外バージョン
曖昧な未来、黒沢清

沙羅双樹
2003年/日活、よみうりテレビ、ビジュアルアーツ、リアルプロダクツ製作/日活、リアルプロダクツ配給/1時間39分
 
監督・脚本=河瀬直美
撮影=山崎裕
音楽=UA
編集=安樂正太郎、三條知生
出演=福永幸平、兵頭祐香、生瀬勝久、河瀬直美、樋口可南子
 
沙羅双樹
 
[ストーリー]
 暑い夏の日、奈良の旧市街の路地裏を駆け抜ける双子の兄弟。気がつくと、兄の姿が「神隠し」のように消えてしまう。5年後、高校生になった弟、俊(福永)は、行方不明のままの兄の複雑な思いを、絵を描くことで満たす日々を送る。それとともに、幼馴染の夕(兵頭)とは淡い想いを共有していく。だが、父が心血を注ぐ「バサラ祭」が近づいたある日、刑事から兄の消息を知らされる……。
 
[コメント]
 1997年にカメラドール(新人監督賞)を史上最年少で受賞した河瀬直美監督。今作品は、またもや奈良が舞台であり、カンヌ映画祭のコンペ部門に選出された。国際的に認められた彼女の今作品は、「千年以上前の営みが、時代の移り変わりと共に、その様式は変われども、命が受け継がれてゆくことの豊かさに変わりはない」ということをメッセージとしているという。
 その言葉どおり、変わらぬ町並みをなお残す奈良の旧市街のなかに、生から死までの、人間のドラマが息づいていることを感じさせる作品だ。特に、バサラ祭りでの夕の踊りや監督自らが演じる出産シーンは、生の重みを強烈に感じる。主役の二人は、今作品が初主演なのだが、その自然な感じが、なおさらこれをうまく体現しているようにみえる。UAの音楽も不思議と奈良の町並みにマッチしている。
 観終わった後の余韻の残し方は絶妙で、すがすがしさと郷愁をかきたてる作品である。理解するというよりも体全体の「感覚」を使って感じる作品ではないだろうか。 (岳)

六月の蛇
2002年/海獣シアター製作/ゼアリズエンタープライズ配給/1時間17分
 
製作・監督・脚本・撮影・美術・編集・出演=塚本晋也
音楽=石川忠
出演=黒沢あすか、神沢裕司、寺島進、田口トモロヲ
 
六月の蛇
 
[ストーリー]
 東京。梅雨。降り続く雨で蒸しあつく、滲みでる汗が粘りつく。潔癖症の中年サラリーマン辰巳重彦(神沢)と心の健康センター電話相談室で働く美貌の妻りん子(黒沢)は、セックスレスが続いている。偶然電話相談でりん子に救われたストーカー男(塚本)はりん子を執拗に迫っていく。りん子の決して他人に知られたくない写真を用いて。
 
[コメント]
 全編で降り止まない雨は、非常にじとじとした、体にまとわりつく雨である。それは、この作品が6月を背景に描いているという理由のみではない。社会的に見せている理性ある姿の奥深くでうごめく女と男の欲望、恥辱、エロスが、まさしく蛇のように私たちの心の奥底まで這って辿ってくるのを実感する。
 ストーカー男がりん子の奥底に眠っていた蛇を覚醒させることは、初めりん子にとって苦痛、恐怖を招き、見ている私も目を背けたい気持ちであった。そして重彦との仲も決して良い関係になっていくものではなかった。しかしりん子はこの男によって救われていることも確かである。理性のなかで恐怖を感じれば感じるほど増大する快楽、りん子のそのような感情によって突き動かされる重彦。そしてりん子に指一本触れずに欲望を湧き起こさせていた張本人のストーカー男。それぞれの愛が究極まで達した時、私は涙を流した。 (朋)

アカルイミライ/海外バージョン
2002年/2002アカルイミライ製作委員会(アップリンク、デジタルサイト、クロックワークス、読売テレビ放送)製作/アップリンク配給/1時間32分
 
監督・脚本・編集=黒沢清
撮影=柴主高秀
美術=原田恭明
音楽=パシフィック231
出演=オダギリジョー、浅野忠信、藤竜也
 
アカルイミライ
 
[ストーリー]
 バイト仲間の雄二(オダギリ)と有田守(浅野)は自分の生活に疑問を感じていた。雄二に断らず失踪した守は、工場の上司の家を襲った罪で捕まり、監獄で自殺する。守の父、有田(藤)のもとで働くようになった雄二は、何度か有田と衝突するが、次第に守の残したクラゲを、河川で繁殖させることに夢中になっていく。
 
[コメント]
 明るい未来とは? 衣食住に困らない。戦争がない。などなど。色々と考えられますが、すべてを満たしているようにみえる日本は、どうも希望のない雰囲気が充満しているような気がします。こんなに自由で、便利になったのに何故なんだろう? 実はその自由と便利さが希望を奪っているような気がします。幸せの方程式の崩壊。過度の自由と情報が、何でも出来そうなんだけど、何をして良いのか分からない。というかやりたいことなんかないじゃん。と自分の身の丈をあからさまにし過ぎて、ある意味勘違いしにくくなってしまっているんじゃないのかな。とか思ってしまいます。夢なんて勘違いの塊だ! 作品に登場する若者たちも、その象徴となるクラゲのような浮遊感で、現代社会の空虚さを存分に発揮させています。ところで、東京の河川を埋め尽くすクラゲをはじめ、印象的な映像はHD24Pにて撮影され、随所にその効果をみることができます。映画の未来は明るいぜ!! (延)

曖昧な未来、黒沢清
2002年/アップリンク制作・配給/1時間15分
 
監督・撮影・編集=藤井謙二郎
出演=黒沢清、オダギリジョー、浅野忠信、藤竜也
 
曖昧な未来、黒沢清

●プロフィール
河瀬 直美(かわせ なおみ)監督

 1969年5月30日、奈良市生まれ。89年大阪写真専門学校(現ビジュアルアーツ専門学校大阪)映画科卒業。『萌の朱雀』(96)で、97年のカンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)を史上最年少で受賞する鮮烈なデビューを飾り、同作の舞台をドキュメントした『杣人物語』(そまうどものがたり)(97)で99年ニオン国際映画祭特別賞受賞。また、『火垂(ほたる)』(2000)では、スイス/ロカルノ国際映画祭コンペティション部門にて、国際批評家連盟賞、ヨーロッパ国際芸術映画連盟賞のダブル受賞を果たす。今年は『沙羅双樹』のほか、『きゃからばあ』と『追臆のダンス』の2本の新作ドキュメンタリーの劇場公開も予定されている。

[フィルモグラフィ]
1998年 私が強く興味をもったものを大きくFixできりとる
     私が生き生きと関わっていこうとする事物の具体化
     My J-W-F
     パパのソフトクリーム
1989年 たったひとりの家族
    今、
    小さな大きさ
1990年 女神たちのパン
1991年 幸福モドキ
1992年 につつまれて
1993年 白い月
1994年 かたつもり
1995年 天、見たけ
    風の記憶〜1995・12・26渋谷にて〜
1996年 現しよ(往復書簡 河瀬直美×是枝裕和)
    陽は傾ぶき
    萌の朱雀
1997年 杣人物語(そまうどものがたり)
1998年 たゆたふに故郷〜一人暮しを始めて、3年目の秋に
1999年 万華鏡
2000年 火垂(ほたる)
2001年 きゃからばあ
    PEACE
2002年 追臆のダンス
2003年 沙羅双樹
    朗読紀行「火宅の人」
 
塚本 晋也(つかもと しんや)監督

 1960年1月1日、東京・渋谷生まれ。幼少期にTV番組「ウルトラQ」にのめりこみ、14歳で初めて8ミリカメラを手にする。高校時代から本格的に絵画を学び、同時に意欲的に8ミリ映画制作を続けるが、日本大学芸術学部美術学科在学中は、自ら劇団を主宰。大学卒業後、CF制作会社に入社し、ディレクターとして4年間勤め、退社後、85年「海獣シアター」を結成し3本の芝居を興行する。86年、『普通サイズの怪人』で映画制作を再開。89年『鉄男』で衝撃的デビューを果たして以降、数々の作品を発表している。最新作『六月の蛇』では第59回ベネチア国際映画祭審査員特別大賞を受賞した。

[フィルモグラフィ]
1987年 電柱小僧の冒険
1989年 鉄男
1991年 ヒルコ/妖怪ハンター
1993年 鉄男II/BODY HAMMMER スーパーリミックスバージョン
1995年 東京フィスト
1999年 BULLET BALLET/バレット・バレエ
    双生児
2002年 六月の蛇
 
黒沢 清(くろさわ きよし)監督

 1955年7月19日、兵庫県神戸市生まれ。立教大学在学中より8ミリ映画の自主制作・公開を手がける。97年『CURE キュア』が東京国際映画祭に出品されたのを契機に、『ニンゲン合格』(98)のベルリン国際映画祭、『カリスマ』(99)のカンヌ国際映画祭監督週間、『大いなる幻影』(99)のベネチア国際映画祭など世界各国の映画祭から招待が殺到し、国際的な評価を確立。カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品された『回路』(2000) は、国際批評家連盟賞を受賞。『アカルイミライ』は本年度カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された。現在、最新作『ドッペルゲンガー』が公開中。

[フィルモグラフィ]
1983年 神田川淫乱戦争
1985年 ドレミファ娘の血は騒ぐ
1988年 奴らは今夜もやってきた
    スウィートホーム
1991年 地獄の警備員
1995年 勝手にしやがれ!! 強奪計画
    勝手にしやがれ!! 脱出計画
    勝手にしやがれ!! 黄金計画
    勝手にしやがれ!! 逆転計画
1996年 DOOR III
    勝手にしやがれ!! 成金計画
    勝手にしやがれ!! 英雄計画
    復讐 THE REVENGE 運命の訪問者
    復讐 THE REVENGE 消えない傷痕
1997年 CURE キュア
    蛇の道
    蜘蛛の瞳
1998年 ニンゲン合格
1999年 カリスマ
    大いなる幻影
    降霊
2000年 回路
2002年 アカルイミライ
    ドッペルゲンガー