強く生きる女性たち

12月1日 「強く生きる女性たち」 (ベルブホール)

●Time Table●
13:00−14:53
15:10−16:45
17:00−18:26
春の日は過ぎゆく
シバジ
クロージング上映作品 -特別先行上映-
住井すゑ 百歳の人間宣言 -「橋のない川」をなぜ書いたか-

シバジ
1986年/韓国/アジア映画社配給/1時間33分
 
監督=イム・グォンテク
脚本=ソン・ギルハン
撮影=ク・ジュンモ
音楽=シン・ビョンハ
出演=カン・スヨン、イ・グスン、ハン・ウンジン、パン・フィ、ユン・ヤンハ
 
[ストーリー]
 舞台は朝鮮・李朝末期。豪族であるシン家では後継ぎが生まれないためにシバジ(代理母)として17歳のオンニョ(カン・スヨン)を雇うことになる。オンニョはシバジとしての役目をみごとに果たすのだが、相手の男を愛してはいけないというその掟を忘れ、いつしかシン家の当主、サンギュを愛するようになっていた……。
 
[コメント]
 今年のヴェネチア国際映画祭で『オアシス』のムン・ソリがマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞した。この報道で思い出されるのは15年前に同映画祭でカン・スヨンが『シバジ』でアジアの女優としては初めて主演女優賞を受賞したことである。
 様々な苦難のなかでほとばしる汗も息遣いもリアリティーを持たせ、少女から女性となり母へと変わる独特のスピード感のある巨匠イム・グォンテク監督の演出を弱冠二十歳で体現した彼女はまさに大女優である。
 彼女の出演作はどれもその当時のセンセーショナルな作品として注目されてきた。また昨年久々にTVドラマに出演し高視聴率をマークした。映画とTVドラマの両方で成功を収めることの出来る数少ない女優である。
 『サイの角のように1人で行け』(1995年の彼女の主演作)とばかりに彼女は常に進み続けている。あの愛くるしい笑顔で観客の驚くさまを楽しんでいるのかもしれない。 (島野千尋)

春の日は過ぎゆく
2001年/韓国、日本、香港/松竹配給/1時間53分
 
監督=ホ・ジノ
脚本=リュウ・チャンハ
撮影=キム・ヒョング
音楽=チョ・ソンウ
出演=ユ・ジテ、イ・ヨンエ
 
[ストーリー]
 ラジオ局の録音技師であるサンウ(ユ・ジテ)とDJ兼プロデューサーのウンス(イ・ヨンエ)は番組の取材で知り合い、行動をともにするうちに惹かれ合う。ふたりは一緒に過ごす時を慈しむように、日常のいろいろな音をテープに残して行く。しかしどこまでも愛に一途なサンウに対し、離婚経験のある年上のウンスの態度はいつしか変化するのだった。
 
[コメント]
 恋をしたことがあれば誰しもわかると思う。まわりの風景や、ふと聞こえてきた音、空気の匂い、すべてのことが混ざりあって、その時にしかない大切な記憶を作る。
 デビュー作『八月のクリスマス』では死期の迫った青年が何かを残すように写真を撮り続けていくが、ホ・ジノ監督がこの第2作で選んだテーマは日常のなかのさりげない「音」。竹林のそよぎ、小川のせせらぎ、真冬の雪がしんしんと降り積もる音、過ぎゆく夏の波の音、そして恋人のハミング。録音技師の青年は、過ぎゆく大切な瞬間を記憶するように、それらの音を採取していく。そんな繊細な青年にも、ついに恋人の「心」は聴こえなかった……。
  移ろいゆく愛に戸惑い、揺れる主人公二人の微妙な気持ちの変化や、青年を取りまく家族のあり方が韓国の美しい四季の移り変わりを背景に描かれ、こころが浄化されていくような、新鮮な感動を覚えた。 (瀬)

クロージング上映作品 特別先行プレビュー
住井すゑ 百歳の人間宣言 --「橋のない川」をなぜ書いたか--
2002年/文エンタープライズ、鈴木文夫、南文憲、柏木秀之製作/1時間26分
 
監督=橘祐典
撮影=南文憲
録音=小林賢
音楽=小六禮次郎
編集=鍋島惇
出演=住井すゑ、野坂昭如、山田洋次、永六輔
 
[解説]
 奈良の大和盆地に1902年に生まれた住井すゑさんが、多感な少女時代を戦前に過ごし、秀れた文才を発揮しながら16才で上京し、俊英なる女性記者として活躍を始め、やがて、戦争という苦難の時代に、農民文学作家の犬田卯(しげる)と結婚、病弱な夫を支えつつ4人の子どもを育てながら、児童文学や農民文学を次々と発表していくたくましい歩みを描いている。映画化された住井作品の貴重な場面も幾つかが登場する。
 また、大河小説「橋のない川」の長年に渡る執筆のなかで、出会いと交流のあった文化人や、育て上げた息子・娘に、インタビューを行ない、思い出の数々や印象深い言葉など心あたたまる敬慕の辞を引き出し、住井さんの人物像を多彩な角度から掘り下げている。
 圧巻は、講演会での住井さんの縦横無尽な語り口である。90才とは思えぬ力強い、しかもセンスとユーモアあふれる口調で、人権・平等・平和について、豊かで深遠な哲学と思想にもとづき、熱烈に語っている内容は、見る者の胸を改めて強く揺さぶる。
 この記録映画は、20世紀を生きながら、人間と歴史を壮大な視野で見つめて、その思いを大河小説「橋のない川」に綴ってきた、偉大な文学者・思想家である住井すゑさんの、21世紀に遺した重要なメッセージと言える。