塚本晋也映画製作術

11月24日 「塚本晋也映画製作術」 (パルテノン多摩小ホール)

●Time Table●
11:30−12:37
13:20−14:50
15:05−16:32
16:50−18:14
18:30−19:30
鉄男
ヒルコ/妖怪ハンター
東京フィスト
双生児
トーク 塚本晋也監督×武藤起一氏(映像環境プロデューサー)

鉄男
1989年/海獣シアター製作・配給/ゼアリズエンタープライズ配給協力/1時間7分
 
製作・監督・脚本・撮影・美術・編集・出演=塚本晋也
音楽=石川忠
出演=田口トモロヲ、藤原京、叶岡伸、六平直政、石橋蓮司
 
鉄男
 
[ストーリー]
 ある朝目覚めると、平凡なサラリーマン(田口)の頬に金属のトゲのようなニキビが……。その日を境に体のあちこちが鉄に侵食されていく。どうやら“やつ”の仕業らしい。体を鉄にむしばまれた男は、自分の恋人(藤原)をも鉄のドリルでえぐり殺してしまう。“やつ”と合体した男は鉄のかたまりとなって、世界に挑戦状を叩きつける!
 
[コメント]
 鉄が肉体を侵していく。さて、どんなものなのだろうと気楽な気持ちで観始めたら、度肝を抜かされた。あれよあれよという間に、ジェットコースターに乗せられて、しっかりと椅子に掴まっていないと体が飛ばされてしまいそうな感覚。約70分間のジェットコースターの後には、ちょっとした疲れと興奮気味な生身の人間が確かに存在する。とても、拾い集めた廃物を利用した、四畳半のアパートの一室で製作された映画とは思えない。
 鉄に侵蝕された男は、自分に困惑するも、抑えていた欲望が徐々に顕になってくる。マゾヒスティックな自分がサディスティックな自分に変わった時、男のなかで別の人格が生まれた。その分身とも捉えられる“やつ”と対決し、合体する。男の奥深くで眠っていたものが、遂には大きな鉄のかたまりとなって理性を侵していく。「こんな世界、程遠い」なんて思っていたら、“やつ”に仕掛けられるかも!? (朋)

ヒルコ/妖怪ハンター
1991年/セディック製作/ゼアリズエンタープライズ配給/1時間30分
 
監督・脚本=塚本晋也
企画=堤康二
原作=諸星大二郎
撮影=岸本正広
特殊メイク=織田尚
音楽=梅垣達志
出演=沢田研二、工藤正貴、上野めぐみ、余貴美子、竹中直人、室田日出男
 
ヒルコ/妖怪ハンター
 
[ストーリー]
 諸星大二郎の漫画が原作。ある新進の考古学者・稗田(沢田)のもとに田舎の中学教師である亡妻の兄から手紙が届く。校内にある秘められた悪霊封じの古墳が開かれ、古事記が物語るイザナギ、イザナミの息子と言われる、ヒルコなる妖怪が現われたという。妖怪センサーを持った稗田は、甥のまさおと共に妖怪ハンターへの旅に出る。
 
[コメント]
 ストーリーだけを聞いたらちょっと怖い冒険映画といった感じであるが、あなどるなかれ、なんとも不思議で切ないお話なのだ。
まずヒルコの容姿。行方不明となった月島礼子似の顔面から直接生える、蜘蛛の足のようなもの6本。その口からひゅるひゅると出てくる、へその緒が太くなったようなもの。中学生まさおの背中に浮き出てくる人面のアザ。<鉄男>を彷彿とさせるグロテスクデザインである。また、廊下を物凄い速度で疾走するローアングルのカメラは、塚本監督の作品によく見られる技法である。
しかし一方で、中学校の小高い丘から村を俯瞰で捉えたショット、夜空の広さを切り取ったショットは、一夏の風景をそのまま切り取るように、とても爽やかで心地よい。そして、友達が妖怪にさらわれた切ない中学生の気持ちが心に染み渡る。ちょっと別口の塚本作品を堪能してみるのもいいのでは? (朋)

東京フィスト
1995年/ゼアリズエンタープライズ製作・配給/1時間27分
 
製作・監督・脚本・撮影・美術・編集・出演=塚本晋也
原案=斎藤久志
特殊造形=織田尚
効果=柴崎憲治
音楽=石川忠
出演=藤井かほり、塚本耕司、六平直政、竹中直人、田口トモロヲ、叶岡伸
 
東京フィスト
 
[ストーリー]
 サラリーマン・義春は、訪れたボクシング会場で、高校時代の友人・拓司と再会した。忌まわしい記憶を共有する拓司の出現に、義春は激しい不安を覚えた。その不安は的中。拓司は義春の恋人・ひずるを誘惑し始めた。拓司の強靭な肉体に魅せられたひずるは全身にピアスを施し、義春もボクシングへと目覚めていく。
 
[コメント]
 とにかく観ていて「痛い!」この一言に尽きる。
 精気を失いかけていた平凡な義春が拓司に殴られたことで、生きているからこそ体感できる痛みというのを実感していく。生きているという感覚を痛みで確認するかのように。同時に、高校時代の復讐心が蘇ってくる。ひたすらトレーニングを続ける拓司、恋人を取り返そうと同じくトレーニングに明け暮れる義春、リングに上がれないひずるは、全身ピアス、刺青と自分の体を痛めつけ、二人と痛みを共有しようとすることによって、同じリングに立とうするという、奇妙な三角関係が現われる。愛情・憎悪・嫉妬・復讐を拳に込めて、三人の闘いが繰り広げられる。思いっきり殴り合った後の、義春とひずるの腫れあがったぐちゃぐちゃな顔には、ある種の爽快感さえ感じる。観ている側にも痛みを感じさせ、それで安心できる映画を、私は初めて観た。 (朋)

双生児
1999年/セディックインターナショナル製作・配給/1時間24分
 
監督・脚本・撮影・編集=塚本晋也
美術=種田陽平、佐々木尚
音楽=石川忠
出演=本木雅弘、りょう、筒井康隆、石橋蓮司、浅野忠信、麿赤兒、竹中直人、藤村志保
 
双生児
 
[ストーリー]
 舞台は階級意識が歴然とあった明治初期。妻・りん(りょう)と幸せに暮らす医師・雪雄(本木)。その前に突如現われた貧民窟出身で、自分と同じ顔を持つ男・捨吉。実はその男、生まれた時に足に奇妙なアザがあるという理由で捨てられた、雪雄の双子の兄弟であり、同じく貧民窟出身のりんの許婚であったのだ。
 
[コメント]
 これまでの塚本監督の作品には、モノクロもしくはモノクロに近い映像が多かったが、この作品はとても色彩が艶やかである。登場人物の衣装・セットなどの美術に加えて、人物それぞれの“消されたマユ”はとても美術的であり、印象的である。江戸川乱歩の同名小説を映画化したものだが、原作は至ってシンプルである。あの短編小説をこれほどまでに膨らませてしまう塚本監督の力量に驚くばかりである。
 テンポの良いカメラワーク、編集は衰えることなどなく、効果的に使われている。雪雄のいる病院の静の映像、捨吉のいる貧民窟の動の映像の対比は、目を見張るものがある。また、この作品でも自分と同じ顔をした男、つまり分身との「対決」が繰り広げられる。りんという女をめぐっての二人の壮絶な争い。どちらが雪雄でどちらが捨吉なのか混乱する。最後に家から出てきたのは、果たして雪雄なのか、捨吉なのか……? (朋)

●ゲストの紹介
塚本 晋也(つかもと しんや)監督

 1960年1月1日、東京・渋谷生まれ。番組「ウルトラQ」にのめり込み、8mmカメラを手にした14歳から映画を作り始め、89年『鉄男』で衝撃的デビューと同時に成功をおさめ、超加速的に映像と音で観客を圧迫する独自の世界を撮り続ける。そのゴージャスで狂おしいほどのエネルギーは、国内、海外の映画ファン・批評家のみならず、M・スコセッシ、Q・タランティーノら海外映像作家も虜となる。俳優としての評価も高く、林海象、竹中直人、山本政志、長崎俊一らの監督作品に出演。監督最新作『六月の蛇』が来春公開予定。
 
[メッセージ]
 このたび僕の映画の特集をやってくださるという。ありがたいことです。僕は基本をインディペンデントの作品づくりにおいていますが、かと言って、企業の作品を拒絶しているわけでは決してありません。むしろ諸手を広げて待っているくらいです。企画をいただくと、必死に実現の可能性を追求します。その時間は大変楽しく興奮します。今回選んでいただいた4本は、まったくの低予算インディペンデント映画、かなりのノウハウを身につけた中規模のインディペンデント映画、完全なメジャー映画、メジャーとインディペンデントがしのぎを削った合体映画とバラエティーに富んだチョイスになっています。トークでは、そのへんのことも語って、映画作りの現場の臨場感が伝われば、と思っています。
 
聞き手:武藤 起一(むとう きいち)氏

 映像環境プロデューサー。1957年、茨城県生まれ。早稲田大学シネマ研究会時代に多数の自主映画を制作。'85〜'91にPFFのディレクターを、'91にはあの伝説の深夜番組「えび天」の審査員を、'93神戸国際インディペンデント映画祭ではディレクターを務める。現在、映画の新たなる旗手を育てるべく、ニューシネマワークショップを主宰。一方、劇場公開作品として『アベックモンマリ』(大谷健太郎監督、99年公開)および『とらばいゆ』(同監督、2002年公開)をプロデュース、高い評価を得た。最新プロデュース作は『Animus Anima/アニムスアニマ』(斉藤玲子監督、03年公開予定)。