戸田奈津子の特選映画シアター

11月24日 「戸田奈津子の特選映画シアター」 (やまばとホール)

●Time Table●
10:30−10:40
10:40−12:38
13:15−15:21
15:40−17:22
17:40−18:40
オープニング
ニューヨークの恋人
海辺の家
アバウト・ア・ボーイ
戸田奈津子のシネマレクチャー

ニューヨークの恋人
KATE & LEOPOLD
2001年/アメリカ/ギャガ・ヒューマックス共同配給/1時間58分
 
監督・脚本=ジェームズ・マンゴールド
脚本=スティーブン・ロジャース
撮影=スチュアート・ドライバーグ
美術=マーク・フリードバーグ
音楽=ロルフ・ケント
出演=メグ・ライアン、ヒュー・ジャックマン、リーヴ・シュレイバー、ブレッキン・メイヤー、ナターシャ・リオン
 
[ストーリー]
 1876年ニューヨーク。イギリスから気の進まない花嫁探しにやってきた若き公爵レオポルド(H・ジャックマン)は、パーティで見かけた不審な男を追ってタイムスリップしてしまう。やってきた先は……現代のN.Y.。広告会社で働くキャリアウーマンのケイト(M・ライアン)は同じアパートに住む元恋人の部屋に奇妙な男が転がり込んでいるのを知る。その男・レオポルドは、古典劇に出てくる貴族の様な煌びやかな服装、完璧な言葉づかいと礼儀作法をこなす自称イギリスの公爵だ。ナリキリ役者とあきれるケイトだったが、彼の堂々とした姿勢や細やかな心遣いに次第に心ひかれるようになる。一方レオポルドも、率直で一生懸命なケイトに心を寄せていくのだった。
 
[コメント]
 この映画では、ケイトとレオポルドのキャラクターが魅力的だ。
 ケイトは仕事をバリバリこなす強い女性だが、実はその反面で恋愛不安や日常のストレスにもろい繊細な面を持っていて、働く女性なら共感を持つだろう。レオポルドは、始めは時代錯誤のおかしな男だが、その古風な挙動が妙に面白く、思わずくすっと笑ってしまう。しかし彼の紳士ぶりは次第に自然に受け入れられ、いつの間にか現代に溶け込んだ魅力的な男性になっている。
 そんな2人をつなぐ時間の象徴は、心のこもった手紙や手作りの朝食、向かいの住人の話題といったアナログなものばかり。忙しく時間が飛ぶように過ぎ去っていく大都市で、そこだけはゆったりとした幸せの瞬間が印象深く心をうつ。 (曜)

海辺の家
Life as A House
2001年/アメリカ/日本ヘラルド映画配給/2時間6分
 
監督=アーウィン・ウィンクラー
脚本=マーク・アンドラス
撮影=ヴィルモス・ジグモンド
音楽=マーク・アイシャム
出演=ケビン・クライン、クリスティン・スコット=トーマス、ヘイデン・クリステンセン、メアリー・スティーンバーゲン
 
[ストーリー]
 南カリフォルニアの海辺の町で、死の宣告を受けた父親(K・クライン)が反抗する息子と2人で手作りの家を建てようとしている。この最後の夏に、自分のものと誇れる“何か”をお前に残してやりたかった……。
 
[コメント]
 人の心は扱いにくい。愛によって始められた結婚がやがて壊れたり、我が子をどう愛すればいいのかわからなかったり。
 ジョージは妻と息子に逃げられ、職も失い、おまけに余命4ヶ月と宣告される。その4ヶ月をどう使うか。彼は自分の人生と向き合い、息子サムとも向き合う決心をする。サムは16歳で、父を憎み、世の中すべてを憎み、自分自身をも憎んでいた。「親がうまく関係を結べない世の中に、なぜ自分までも産み落としたのか?」子の混乱と不幸は、そこに始まると思う。ジョージはサムと家を建てることで、自分と息子の人生を取り戻そうとする。父から貰い惰性で住み続けた古い家を、ぶちこわして。
 新大陸で無一物から始めねばならなかったアメリカ人には、家も自分の手で作るセルフ・ヘルプ(自助)の精神が根底にあるのだろう。人間、本当にやりたいことを真剣にやりだすと、自然に周囲の人々との関係もうまく回りだすもののようだ。
 さて結末は? 見てのお楽しみ。ということで、ケビン・クライン、うまいです。ヘイデン・クリステンセン(『スター・ウォーズ エピソード2』ではアナキン役も)、美しいです。家は、人生の門出の場所——T.S.エリオット (苅)

アバウト・ア・ボーイ
About A Boy
2002年/UIP映画配給/1時間42分
 
監督、脚本=ポール・ウェイツ、クリス・ウェイツ
脚本=ピーター・ヘッジス
撮影=レミ・アデファラシン
美術=ジム・クレイ
音楽=デーモン・ゴフ
出演=ヒュー・グラント、ニコラス・ホルト、レイチェル・ワイズ、トニー・コレット
 
[ストーリー]
 ウィル(H・グラント)はロンドンで一人暮らしの38才。亡父が書いたヒットソングの印税で働く必要もない気楽な身分であった。彼は他人と深く関わることを避けていたが、理想の交際相手として思いついたのがシングルマザー。彼女らが集まる集会で知り合ったのが12才の少年マーカス(N・ホルト)。彼にはヒッピー指向でウツ気味の母がいて、学校でイジメの対象となっていた。悩み多き少年と奇妙な付き合いをしていくうちにウィルにも変化が起きてきた……。
 
[コメント]
 私がイギリス映画の好きな1つの理由は、人生を冷ややかに見つめている反面、ときおりホロッと情にあふれる瞬間をみせてくれるからである。
 いつもは美しい女優のロマンチックなナイト役のヒュー・グラントだが、今回は子役相手に大人になりきれない男を絶妙に演じていた。「人間は誰でも孤独」をモットーにしていた無責任男が、少年を通して知り合った友人たちとクリスマスパーティを開いて人生の幸福論を語っているのはホロリとした。人は決して1人では生きられない、と。
 もう1つの見所はファッション。服飾評論家のピーコも言っていたが、ウィルのお金がかかっているのにきどらない着こなしに注目!! (ちえ)

●ゲストの紹介
戸田 奈津子(とだ なつこ)氏

 東京都出身。字幕翻訳家。幼くして父親が戦死。映画好きの母親と勤め帰りに待ち合わせて色々な映画を観るうちに映画の日本語字幕に興味を持ち、翻訳の仕事をしたいと思うようになった。特に『第三の男』は日本語字幕をすべて覚えてしまうほど好きな映画だった。
 津田塾大学英文科に進んでから、日本語字幕の第一人者である清水俊二氏に手紙を書いたが、いい返事はない。しかし、清水氏に最初に言われた言葉で、「映画字幕は翻訳にあらず。日頃から、全ての物事に興味を持ち、雑学博士となれ」は、今でも映画字幕作業の基本としている。
 大学を卒業後、生命保険会社の秘書となるが、映画字幕の翻訳の夢が捨て切れず、1年で退社。翻訳のアルバイトを続けるうちに、清水氏の紹介で映画関係の翻訳、通訳の仕事が回ってきた。そして1970年『小さな約束』で翻訳家デビュー。以後『地獄の黙示録』『E.T.』『フィールド・オブ・ドリームズ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『A.I.』など数々のヒット映画を手がける。特選映画シアターで上映する3作品も翻訳作品である。著書に「男と女のスリリング」(集英社)「字幕の中に人生」(白水社)がある。