アジア映画を旅して

12月1日 「アジア映画を旅して」 (やまばとホール)

●Time Table●
11:00−12:25
13:00−14:54
15:15−17:07
カンダハール
モンスーン・ウェディング
小林サッカー

カンダハール
Kandahar
2001年/イラン=フランス/オフィスサンマルサン配給/1時間25分
 
監督、脚本、編集=モフセン・マフマルバフ
撮影=エブラヒム・ガフーリ
音楽=モハマド・レザ・ダルビシ
出演=ニルファー・パズィラ、ハッサン・タンタイ、サドュー・ティモリー
 
[ストーリー]
 カナダに亡命したアフガニスタン人のナファス(N・パズィラ)は、地雷で足を失い独りカンダハールに残った妹から悲痛な手紙を受け取った。それは、20世紀最後の皆既日食が訪れる日に自殺する、というものだった。タリバンの支配により社会から女性が消えたこの国に生きる希望はない。と書きつづった妹のために、ナファスは祖国に戻ることを決意する。
 
[コメント]
 もし、9月11日のテロがなかったらアフガニスタンの現状をここまで深刻に受け止めていなかったかもしれない。この映画の素晴らしいところは社会問題をヒステリックに突きつけるのではなく、そこで生活する人々の普遍的な感情や映画的芸術によって、浮かび上がらせている点である。マフマルバフといえば『ワンス・アポン・ア・タイム、シネマ』のヨーロピアンアートに酔った覚えがあるが、本作は政治的示唆に富んでいると同時に、エンターテイメント性にも溢れている。主人公ナファスは、カンダハールに残り自殺をほのめかす妹を勇気付けるためにかの地へ向かう。その方法は女性の全身をくまなく覆うブルカに身を隠して、結婚式の行列に紛れ込むというものだ。その道中をばれずに逃れられるか? そのスリル。地雷で足を失った人々のために、ヘリからパラシュートが付けられた義足が投下される時の、義足が空を舞う映像のシュール。どれも今や必要とせざるを得なくなってしまったアイテムが織り成す悲劇といえよう。 (延)

モンスーン・ウェディング
Monsoon Wedding
2001年/インド/メディア・スーツ配給/1時間54分
 
監督=ミラ・ナイール
脚本=サブリナ・ダワン
撮影=デクラン・クイン
音楽=マイケル・ダンナ
美術=ステファニー・キャロル
編集=アリソン・C・ジョンソン
出演=ヴァソンダラ・ダス、ナジルラディン・シャー、ヴィジェー・ラーズ
 
[ストーリー]
 インドに住むベルマ氏の庭では結婚式の準備が始まった。長女アディティ(V・ダス)が親の決めた縁談を急に承諾したのだ。彼女は仕事も辞めて、結婚相手の住むヒューストンについていくことになっていた。ベルマ氏はモンスーンの時期に親戚縁者を集めて伝統にのっとった式を挙げようとするが、これがはからずも集う人々の愛を育むこととなる。
 
[コメント]
 インド映画といえば、数年前日本でも大流行した『ムトゥ・踊るマハラジャ』のように、身分の違いを乗り越えた恋愛のようなシンプルなストーリーをミュージカル仕立てで描くイメージがあるが、本作はそうした伝統的なインド映画のゴージャスさを踏襲しつつも、インドの今を描いているところが興味深い。何しろ周知の通り、現代のインドは世界有数のシステムエンジニアを抱えるIT国家なのだから。物語はデリーに住むベルマ家の長女アディティが親の決めた縁談を急に承諾し、結婚式の準備を始めるところから始まる。結婚相手はアメリカで仕事をするエンジニア。家長のベルマ氏は娘のために伝統にのっとった式を挙げようとする。その過程には式をコーディネートするプランナーとベルマ家のメイドとの恋が生まれたり……。そして様々な人間関係のしがらみを吹き飛ばしてくれるのが、モンスーンとやっぱりダンス! なんともインドの伝統と現在が入り混じった、複雑な魅力に溢れているのだ。 (延)

少林サッカー
少林足球
2002年/香港/クロックワークス、ギャガ・ヒューマックス配給/1時間49分
 
監督・脚本・出演=チャウ・シンチー
音楽=レイモンド・ウォン
出演=ン・マンタ、ヴィッキー・チャオ
 
[ストーリー]
 伝説のサッカー選手ファン(N・マンタ)は、八百長試合に応じたばかりに選手生命を絶たれ、ライバル選手ハンの雑用係に身をやつしていた。ある日、ファンは少林寺拳法の伝道を目指す青年シン(C・シンチー)と出会う。シンの驚異的な脚力を見込んだファンはサッカーチームの結成を持ちかけ、シンの兄弟子たちと「少林チーム」を結成して大会に臨む。
 
[コメント]
 『少林サッカー』。私がこの作品を目にしたのは、中国からの帰りの機内での機内誌のなかだった。世界各国の映画の興行収入成績を記した記事のなかで、香港で驚異的な興行成績を収めた『少林足球』が取り上げられていた。よくよく記事を見れば、監督はチャウ・シンチー(周星馳)。そういえば、かつて会社帰りにキネカ大森で見た香港映画のなかでも、彼の『食神』や『008皇帝ミッション』は卓越した笑いのセンスで強い印象に残る作品だった。だから『少林サッカー』の日本での全国公開を知った時には、待ち侘びていた作品に会える嬉しさと、これだけの実績があれば当然という両方の思いを感じたものだ。今回改めてこの作品を観て思うのは、ストレートに反応できる面白さが詰まっているということ。欧米のTVドラマのように頭で翻訳して笑う作業は必要なくて、身のまわりにいそうな仏頂面のおじさんの行動を見ていると自然に笑える面白さが感じられてくる。 (憲)