ウエルカム・トゥ・シルバーエイジ

11月25日 「ウエルカム・トゥ・シルバーエイジ」 (ベルブホール)

●Time Table●
11:30−13:15
14:00−15:51
16:10−17:42
虹の岬
ストレイト・ストーリー
ウエイクアップ! ネッド

虹の岬
1999年/東北新社製作/東宝配給/1時間55分
 
監督=奥村正彦
原作=辻井喬
脚本=中村努
撮影=坂本典隆
美術=藤原和彦
編集=川島章正
出演=三國連太郎、原田美枝子、内野聖陽、中江有里、星由里子、夏八木勳、神山繁、すまけい
 
[ストーリー]
 17歳で結婚した祥子(原田)は、それまでは家庭のことしか知らない、ごく平凡な主婦であった。そんな祥子が川田順(三國)という歌人と出会ったのは、日本の敗戦が差し迫った頃だった。川田は、実業界の第一線で活躍しながらも、その地位を捨て、近代短歌史上に輝かしい足跡を残した人物であった。運命としか言いようのない時代の流れのなかで、ふたつの魂が静かに静かに燃え上がろうとしていた。川田の激しい告白を受け、祥子は逡巡しながらも、ついに、3人の子を捨てて家を出る決意をするのだった……。
 
[コメント]
 「老いらくの恋」という形容がぴったりするのは大学教授や小説家といった知識人、文化人だ。八百屋の八っさんや、土建屋の六さんが道ならぬ恋、忍ぶ恋をしても誰も「老いらくの恋」などとは言ってくれない。ただの「色ボケ」なのである(そういう意味では石○純△の発言は正しい)。例えば、中原中也と小林秀雄の康子をめぐるいきさつや、谷崎潤一郎の妻と佐藤春夫とのいきさつ(「老いらくの恋」ではないが)。普段、高尚な事柄を考えているはずの文人が色恋に狂うその落差に人は下世話な興味をそそられる。そういう意味でこの映画で重要になるのはただキャスティングなのだ。大学教授の夫と3人の子供を捨てる祥子に『愛を乞うひと』でますます円熟味が増した原田美枝子はまさに適役。問題は、その相手役が三國連太郎ということだ。どうしても飯場の棟梁、愚連隊の頭、あるいは犯罪者(最近は釣り好きのスーさんかもしれないが)といったアウトローのイメージが強い彼がはたして適役だったのかというとはなはだ?? なのである。じゃあ、誰が適役だろう? そう思うとこの役にぴったりする人がなかなか思いつかない。なんと日本人の顔は「色ボケ」、「金ボケ」した貧相な顔になってきたのではないか。違う意味でノスタルジックな思いにかられる映画だ。 (セ)

ストレイト・ストーリー
THE STRAIGHT STORY
1999年/アメリカ/コムストック配給/1時間51分
 
監督=デイヴィッド・リンチ
脚本=ジョン・ローチ、メアリー・スウィーニー
撮影=フレディ・フランシス
音楽=アンジェロ・バダラメンティ
美術=ジャック・フィスク
衣装=パトリシア・ノリス
編集=メアリー・スウィーニー
出演=リチャード・ファーンズワース、シシー・スペイセク、ハリー・ディーン・スタントン
 
[ストーリー]
 アメリカ、アイオワ州のローレンス。73歳になるアルヴィン・ストレイト(R・ファーンズワース)は、娘のローズ(S・スペイセク)と2人暮しをしていた。そんな彼のもとに1本の知らせが入る。10年来仲違いしている兄ライル(H・D・スタントン)が倒れたのだ。アルヴィンは兄に会いに行くことを決意する。しかも、どうしても自力で行かなければならない。けれどもアルヴィンは目が不自由なために転倒して足を痛めている。さらに車の免許も持っていない。そんな彼にローズは行くことを強く反対する。しかしアルヴィンはたった1人で、2本の杖を持ち、時速8kmのトラクターで、兄ライルの住む、560km離れたウィスコンシン州マウント・ザイオンまでの旅に出た……。
 
[コメント]
 アルヴィン・ストレイト、彼は映画のなかで時速8kmのトラクターに乗り、ひたすらにまっすぐ走っている。本当に、ただただひたすらにまっすぐ走っている。この映画を平たく言ってしまえばただそれだけのことだ。しかしこの映画が、そしてアルヴィン・ストレイトが私達を惹き付けるのは“ただまっすぐ”だからだ。私達は日常の生活で、誰が何と言おうと常に何か1つのことにまっすぐ向かっていたいと考える。少なくとも私はそう思っている。しかし、それはとても難しいことだと、夢みたいなことだと多くの人が思っているだろう。アルヴィン・ストレイトはそれを成し遂げてしまった。10年ぶりに兄に会うことを決意し、周囲の反対を押し切って、“兄に会う”それだけを考えて旅をし、成し遂げた。つまりこの映画が多くの人に受け入れられたのは、人々が本当にしたいと願う夢をはっきりと形にして表したからではないだろうか。 (香)

ウェイクアップ! ネッド
A WHODUNNIT ABOUT WHO WONNIT!
1998年/イギリス/トムボーイ・フィルムズ製作/K2エンタテインメント、東京テアトル配給/1時間32分
 
監督・脚本=カーク・ジョーンズ
撮影=ヘンリー・ブラハム
音楽=ショーン・デイヴィ
美術=ジョン・エブデン
編集=アラン・ストラチャン
出演=イアン・バネン、デヴィッド・ケリー、フィオヌラ・フラナガン、スーザン・リンチ、ジェイムズ・ネズビット
 
[ストーリー]
 アイルランドの小さな田舎町タリーモアで12億円相当の宝くじが52人の村人のうち誰かが当たった。宝くじのおこぼれにあずかろうとジャッキー(I・バネン)とマイケル(D・ケリー)は、村で宝くじを買った人を呼び集め、“チキンパーティー”を開いて突き止めようとしたら欠席者が1人! それがネッドだった。当の本人ネッドは、当たったショックで満面の笑みを浮かべて昇天してしまった! このままでは身寄りのないネッドの賞金は、国に没収されてしまう。ダブリンからやってくる調査員に村人が一致団結してねこばば計画を企てる!
 
[コメント]
 ジャッキー、マイケルのコンビを始めとして村人1人1人の個性が生き生きと描かれている。その多くのキャストは、撮影地で監督が見つけたエキストラだそうだ。52人の村人はネッドになりすまして宝くじ会社に電話をかけたが、急にやってきた調査員に慌てながらも何とかだまし通そうとするジャッキーとマイケル。好きな女の子に豚の匂いがくさいと言われたり、好きだけどその匂いが耐えられないシングルマザーがいたり、女たらしがいたりと……。何よりくせものばあさんリジーの存在が大きい。村人全員でネッドの賞金を山分けすることを提案したのに、リジーだけが「サギを通報したら、賞金の10%が貰えるから、等分よりもっとくれなきゃ通報する!」と言い出す始末。こんなことをしてばれたら刑務所行きになると怒るジャッキーの妻アニー。しかし、絶対うまくいくと信じ込んでいる楽天家ジャッキーに振り回される心やさしいマイケルと、1人1人が実に細かく丁寧に描かれている。じいさんと言えどもバイクを乗り回すパワフルさも見せている。アイルランドの美しい風景を織りまぜながらあきさせない展開で迎えるラストは、ハリウッド映画にはない終わり方をみせる。 (聖)