スクリーンに映る多摩の風景

11月24日 「スクリーンに映る多摩の風景」 (ベルブホール)

●Time Table●
17:00−18:34
19:00−20:15
毎日が夏休み
どこまでもいこう

毎日が夏休み
1994年/パイオニアLDC、サンダンス・カンパニー製作/KUZUIエンタープライズ配給/1時間34分
 
監督・脚本=金子修介
原作=大島弓子
撮影=柴崎幸三
美術=及川一
音楽=大谷幸
編集=富田功
出演=佐伯日菜子、佐野史郎、風吹ジュン、高橋ひとみ、益岡徹、黒田福美、上田耕一
 
[ストーリー]
 林海寺スギナ(佐伯)は再婚同士の母親(風吹)と義父(佐野)を持つ中学2年生。スギナは「今日も元気に登校拒否だ!」と公園のベンチで読書に耽っていると、会社にいるはずの義父とバッタリ遭遇。義父もまた出社拒否を続けていた。優等生の娘と一流企業に勤める夫が自慢の母は事実を知らされ絶望の淵へ……。そんな母をよそに義父と娘は「何でも屋」を開業する。炊事、洗濯、掃除、買い物……と様々な依頼をこなし大評判。至って前向きな2人とは裏腹に近所の噂にたまりかねる母。そんな折、義父の別れた奥さん(高橋)より仕事の依頼を受ける……。
 
[コメント]
 「毎日が夏休み」なんとも羨ましい響きである。失業の身の父親と、登校拒否の娘……深刻な問題を抱えながら、そんなことを微塵も感じさせない不思議な感覚(新感覚癒し系?)の作品だ。どんな状況でも前向き(?)に生きてゆく2人の姿は観ていて気持ちが良い。原作は大島弓子の漫画で台詞回しやタイミングなど漫画そのままの感覚で作られているのも面白い。今の時代に疲れた人、元気になりたい人にお薦めだ。今回、注目すべきは舞台が東京郊外の新興住宅地で、主なロケ地としてここ多摩市が使われている点である。冒頭父娘が出会うのは背景の小山が印象的な鶴巻東公園。主人公の住居もこのすぐ近くの住宅(鶴巻3丁目)。住宅の脇に父娘が何度となく通るきれいな並木道もある。鶴巻東公園から南へと繋がる奈良原公園奥の車道沿い(鶴巻4丁目)に、父が自転車で駆け降りるジグザグの坂がある。また、パルテノン多摩の奥にある中央公園はスギナが怪しげな男と出会うシーンに使われている。紹介はしきれないが、この鶴巻団地周辺はどこをとっても映画の舞台のような、この映画のためにあるようなそんな街並である。映画のワンシーンに魅せられたあなた、是非散策してみてはいかがだろう。(詳細はギャラリー展示にて是非どうぞ!) (学)

どこまでもいこう
1999年/ユーロスペース、映画美学校製作/ユーロスペース配給/1時間15分
 
監督・脚本=塩田明彦
撮影・照明=鈴木一博
録音=臼井勝
美術=磯見俊裕、三ツ松けいこ、露木恵美子
音楽=岸野雄一
編集=筒井武文
出演=鈴木雄作、水野真吾、芳賀優里亜、鈴木優也、能登絵梨菜、小貫華子、安藤奏
 
[ストーリー]
 郊外のニュータウン。同じ団地に住むアキラ(鈴木雄作)と光一(水野)は、いつものように連れだって小学校に向かう。途中、おきまりのいたずらを一発、軽くこなしながら。5年生の新学期、そんな2人の暴走を止めようとする体育教師の予告どおり、2人はクラスを分けられてしまう。「関係ねえよ!」。友情は続くと信じていた2人だが。光一は不良転校生とつきあいだし、一方アキラはクラスでは目立たぬが思わぬ才能を持つ野村(鈴木優也)を知る。2人の関係は、日がたつにつれ微妙な変化をみせていく……。
 
[コメント]
 子供から大人になるとはどういうことなのかを描いた作品である。希望が持てる素敵な、それでいてどこか悲しいタイトル。英題『Don't look back』。10歳といえばたしかに、精神的にも肉体的にも大きな変化を迎えた時期だったかもしれない。それまで何も考えずに行動していたのが、新しい人間関係を知り、自分と他人の気持ちに気づきはじめ、大人になることへの純粋で漠然とした期待と不安が生まれはじめた微妙な季節。友情、裏切、別れ、ほのかな恋。その頃の自分は……、そして今の自分は……。『どこまでもいこう』は、そんな自分の原点を見つめなおす機会を私たちに与えてくれる。舞台は多摩ニュータウンの一角。アキラの家がある永山三丁目団地付近、彼らの遊び場である諏訪南公園、写生会で使われた多摩中央公園、多摩センター駅周辺、背景に映るベネッセcoビルや愛宕の給水塔など。多摩を知っている人には馴染み深い景観ばかりがリアルにスクリーンに映り、より一層深い郷愁を覚えるだろう。自転車で撮影地を巡った時、ワルさしているアキラと光一がその辺りから飛び出してきそうな、それでいて自分もその映画の一役として登場しているかのような、不思議な一日を体験した。「男子ってさ、ばかだよね」。私もそんなことを言っていたかな、なんて思いながら。 (阪)