20世紀を飾った銀幕のスター 男優編

11月18日 「20世紀を飾った銀幕のスター 男優編」 (ベルブホール)

●Time Table●
11:00−12:26
13:10−16:44
17:00−19:10
銀嶺の果て
陽のあたる坂道
蘇える金狼

銀嶺の果て
1947年/東宝製作・配給/1時間29分
 
監督=谷口千吉
脚本=黒澤明
撮影=瀬川順一
音楽=伊福部昭
美術=川島泰三
編集=長澤嘉樹
出演=三船敏郎、志村喬、小杉義男、若山セツ子、河野秋武
 
[ストーリー]
 故3人組の強盗(の一人が三船)が、警察の眼を逃れて、北アルプスの山小屋に隠れ、そこに住む老人(志村)と娘(若山)との間に交流が生まれるが、警察の手が刻一刻追いつめていく……。
 
[コメント]
 敗戦の混乱が続く1946年6月に、三船敏郎は東宝第一期ニューフェイス(同期に久我美子、本作品で共演の若林セツ子)に合格。翌年、『銀嶺の果て』で<世界のミフネ>の記念すべきデビュー作となる。当時としては、めずらしく冬のアルプスにカメラを持ち込んだ大ロケーションを行ない、壮大な雪山をバックに、三船の荒々しい獣のような野性をギラつかせたワルを具像化した。この一作により、これまでの、のっぺりとした美男という日本の俳優像をぶちこわし、翌年の1948年、黒澤映画『酔いどれ天使』の飢えた狼のように、ギラギラと眼を光らせた肺病のチンピラやくざへと繋がれていく。「世界のクロサワの陰にミフネあり」と、よく耳にするが、黒澤映画が世界的評価を得たのも、三船の国際的スケールの存在感と強烈な個性、セックスアピールに負うところ大であることは間違いない事実である。ヴェネチア映画祭主演男優賞を2度も受賞し、『グランプリ』、『レッド・サン』など海外作品でも活躍して、<世界のミフネ>の異名を全世界に轟かせた日本男優の革命児。最近は『ミフネ』という映画が公開されたのも記憶に新しいところである。『銀嶺の果て』は、谷口の監督デビューでもあり、脚本は谷口と黒澤が20日間で書き上げた、スリルとアクションあふれる娯楽作になっている。B級アクションの名作であるとともに、三船敏郎のデビュー作としても、映画史に残る作品である。 (一)

陽のあたる坂道
1958年/日活製作・配給/3時間34分
 
監督・脚本=田坂具隆
脚本=池田一朗
撮影=伊佐山三郎
音楽=佐藤勝
美術=木村威夫
編集=辻井正則
出演=石原裕次郎、北原三枝、芦川いづみ、小高雄二、轟夕起子、千田是也、渡辺美佐子
 
[ストーリー]
 石坂洋次郎の原作を田坂具隆監督と石原裕次郎のコンビで映画化した青春映画の大作。上流家庭、田代家の次男(石原)は妾の子で常に自分を非難される立場に置こうとし、幼い頃長男の不注意から妹(芦川)にケガをさせた罪をもかぶっていた。この家庭に、妹の家庭教師として美しい女子大生(北原)が訪れたのを契機に、家族は次第に真実の自分をさらけ出していく。『乳母車』で石坂洋次郎のユートピア的な人間関係を淡々と描いて、ある種のリアリティを持たせた田坂具隆監督がここではさらに複雑な人物設定を得て、より深く3時間の長尺をじっくりと見せる。石原裕次郎が『乳母車』に続き、巨匠のもとでのびのびとした演技を披露する。
 
[コメント]
 長身、長い脚、素敵に着こなす背広姿、ヤクザを演じさせたら天下一品と、当時のスタッフの言葉を思い出す。決して美男子とは言えないが好男子には間違いない。誰もが好きになってしまう石原裕次郎である。私は子供の頃、新聞に連載された『陽のあたる坂道』を毎日学校から帰って来て読むのが楽しみだった。そして石原裕次郎主演で映画化され、観た時、少し反抗的にすがすがしい好青年を演じた姿にすっかりのぼせていたようである。私はある人の紹介で日活撮影所に入社したのだが、あの素晴らしい裕次郎、スターなのに気どらない裕次郎を目の当たりにしてみて同じ撮影所で働くことだけでも毎日がルンルン気分の青春の日々を過ごしていたように思えます。今の若者には『太陽にほえろ』、『西部警察』など晩年の貫禄たっぷりの石原裕次郎しか御存知ないと思うが、常識からはみ出すことが出来なかった時代の我々にとっては、枠に収まることのない、不良ぽさに対する好感度から何度映画を観ても引きずり込まれていく魅力があったのです。正に日活の救世主でした。私にとっての裕次郎は遠い追憶の彼方へと去ってしまいましたが、当時の若者を魅了し、日本映画を活性化した石原裕次郎の映画を今の若い人に是非観てもらいたいと思います。 (紀)

蘇える金狼
1979年/角川春樹事務所製作/東映配給/2時間10分
 
監督=村川透
原作=大藪春彦
脚本=永原秀一
撮影=仙元誠三
音楽=ケーシー・ランキン、トッシュ
美術=佐谷晃能
編集=鈴木晄
出演=松田優作、風吹ジュン、佐藤慶、成田三樹夫、小池朝夫、真行寺君枝、草薙幸二郎
 
[ストーリー]
 銀行の現金運搬人が何者かに非情な手口で殺され、所持していた一億円にも上る現金が強奪された。犯人は、普段平凡なサラリーマンを装っているが、その本性は冷酷なスナイパーである浅倉(松田)。奪った紙幣のナンバーが控えられていたことを知り、その金を麻薬に換えて売りさばこうとする彼は、次々と情け容赦なく殺人を繰り返していく。またそれだけでは飽き足らず、上司の愛人(風吹)を利用して重役たちを脅し、会社の資産をもその手中に収めようとするのだった。彼の本当の目的とは……。
 
[コメント]
 この映画のなかで、主人公の口からその心情が吐露される場面はない。観ている側は、その言葉や眼差しから、彼の追い求めているものを推し測ることしかできないのだ。金や女をどれだけ手にしても餓えている彼が、最後に見た夢はいったい何だったのだろう? 松田優作の演技が尋常でない狂気を醸し出していて、素晴らしい(逆に彼に、日常を描いたドラマなどを演らせると妙な違和感があったという話だが)。鮮やかな狙撃の場面にも目を奪われるのだが、それよりも中盤やラストのひとり暴れ狂うシーンが強く印象に残る。なるほどこれが「20世紀の日本映画を代表する俳優」と言われる由縁だと感じた。主人公に脅されて、責任をなすりつけ合う重役たちの姿が醜い。しかし日本の組織の体質とは、今も変わらずこれと似たようなものであるのだろう。営利を貪る一部の人間が多数の人間を支配し、不祥事が起きると互いに責任転嫁に走る。そんな奴等に啖呵を切る主人公を見て、胸のすく思いがした。松田優作の演技には勿論だが、そのスタイルの良さにも釘付け。時代を感じさせるファッションはともかく、あの手足の長さは……。隣に並んだ方々(誰とは言うまい)が気の毒なほど。しかし、あのカツラはアリ……なのだろうか……。 (ル)