世界にはばたく若き巨匠たち

11月25日 「世界にはばたく若き巨匠たち」 (パルテノン多摩小ホール)

●Time Table●
12:00−13:27
14:10−15:50
16:10−19:47
BULLET BALLET/バレット・バレエ
MONDAY
<特別先行プレビュー(第53回カンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞受賞)>
EUREKA/ユリイカ

BULLET BALLET/バレット・バレエ
2000年/海獣シアター製作/ゼアリズエンタープライズ/1時間27分
 
監督・脚本・撮影監督・美術・編集=塚本晋也
撮影=天満眞也
音楽=石川忠
出演=塚本晋也、真野きりな、中村達也、村瀬貴洋、田口トモロヲ、井筒和幸、鈴木京香
 
[ストーリー]
 ある日、帰宅した合田(塚本)は、自分が住むマンショの周りの人だかりを目にする。その人だかりの理由は、彼と同棲中の恋人(鈴木)の拳銃自殺だった。恋人を失った合田は、空虚感から彼女が自殺に使った道具の拳銃に惹きつけられる。路上の売人から拳銃を買おうとするが手に入らず、材料を買い求め自ら密造を始める。やがて完成した拳銃を携え、彼はかつて自分を痛めつけた不良グループに復讐に行く。しかし逆に相手に痛めつけられてしまう。その過程で、主人公は不良グループの少女(真野)に密かな親密感を抱き始め、死を予感した彼女からのFAXを受け取ったのをきっかけに、抗争現場に赴く。不良グループの構成員が次々と死に見舞われるなか、主人公は少女に求められるままに、闇のなかでの最後の闘いに加わる。
 
[コメント]
 映画館に貼られたこの映画のポスターは素晴らしく、実際の作品のモノクロ映像も美しい。この作品はストーリーではなく、映像を見て楽しむ映画だと感じた。少女が合田の部屋で戯れる場面で、白黒写真に写っているような部屋の空間に立つ少女の存在感や、屋上の場面で水たまりに写る空の表情の変化は魅力的だ。しかし彼女がどのような人間なのか、彼女の台詞は充分に説明してくれない。この映画を観終えた後に、無声映画を見た後のような感覚を覚えた。正直に言うと、そのためにこの映画のストーリーは分かりにくい。通常の劇映画のように、登場人物が何を思い、どのような環境で育ったのか、観客が分かるように誘導してくれる台詞は多くない。しかし、登場人物の表情や雰囲気が観客を惹き付け、その欠点を補ってありあまる魅力的な映像がある。 (浜)

MONDAY
1999年/シネカノン、シネロケット、メディアファクトリー製作/シネカノン配給/1時間40分
 
監督・原案・脚本=SABU
撮影=佐藤和人
美術=丸尾知行
音楽=渋谷慶一郎
編集=小永組雄
出演=堤真一、松雪泰子、安藤政信、西田尚美、大杉漣、塩見三省、田口トモロヲ
 
[ストーリー]
 小心者のサラリーマン・高木(堤)が目覚めると、そこは見知らぬホテルで、しかも月曜日の朝。あわてて彼は必死に記憶を辿ろうとする。そんな彼に与えられた手がかりはお清めの塩。それをきっかけに、知り合いの通夜に参列していた記憶が甦ってくる。通夜に列席する人々。そこに突然鳴り響く電話。それは遺体の心臓に仕込まれたペースメーカーを外すようにとの病院からの連絡だった。ひょんなことからこの仕事を任せられた彼は、慣れぬ仕事に悪戦苦闘する。しかし、努力のかいもなく失敗し遺体は爆発するのだった……。この出来事があまりにも面白かっため、彼は通夜の後、ガールフレンドと会って話そうとする。しかし、彼にとっては面白い話も、ガールフレンドにとってはどうでもいい話。気が付くと、ガールフレンドは席を立って消えている。やけっぱっちになった彼はバーに行く。そこで、美女(松雪)に出会って一目惚れするが、実はやくざの女。そのやくざに気に入られた主人公は一緒に酒を飲み、図らずも連続殺人へと足を踏み入れていく。
 
[コメント]
 観た後に、どのように解釈すればよいのか悩む映画だった。軽快な音楽のなか、立ち並ぶ美女の前で主人公が踊る場面は面白い。しかし、ラストで主人公が演説する場面とのギャップには戸惑った。中盤の映像が面白いために、ハリウッド映画に出てくるような単純明快なラストの演説の意外性に混乱してしまった。サブ監督は、銃と酒の害悪を憎む正義漢なのか、それともこの演説のセリフは面白い映画を撮るための単なるダシなのか。さらには、ベルリン国際映画祭の審査員は、このテーマを素直に受け取って国際批評家連盟賞を贈ったのだろうか……。主人公の演説から、多くの疑問が湧いてきた。 (浜)

EUREKA/ユリイカ
2000年/電通、IMAGICA、サンセントシネマワークス、東京テアトル製作/サンセントシネマワークス、東京テアトル配給/3時間37分
 
監督・脚本・音楽・編集=青山真治
撮影=田村正毅
美術=清水剛
音楽=山田勳
出演=役所広司、宮崎将、宮崎あおい、斉藤陽一郎、国生さゆり、利重剛、光石研
 
[ストーリー]
 ある九州の地方都市でバス運転手をしている沢井(役所)はバスジャックに遭い、危うく命を落としかける。沢井のほかに生き残ったのは中学生の兄・直樹(宮崎将)と小学生の妹・梢(宮崎あおい)の2人。事件とその後のマスコミ攻勢や周囲の好奇の視線によって大きく傷ついていく3人。その2年後、すべてを捨て行方をくらませていた沢井が故郷に戻ってくると、間を置かず連続殺人事件が発生し、沢井に疑いの目が向けられるのだが……。
 
[コメント]
 「ちょっと並じゃないですよ」と含み笑いするような田村正毅さんの言葉どおり、初めて開発された「クロマティック B&W」という現像処理を用いた映像が凄い! 巻頭、主人公のバス運転手や若い兄妹の目を通じて私も通学途上の車窓を眺める。ン? 何かヘンだ。映っているのは当たり前の風景なのに、この不安感は何だろう?  モノクロなのに色彩が見え隠れする不思議な色調のなかで、風景が奇妙にいびつな気配を帯びているではないか。気配……何かの気配が濃厚に漂う。「気配」に導かれて物語が転がり始めると一気に惹きつけられ、あっという間に3時間余が過ぎた。例えば、こんな場面がある。スクリーンを貫くような巨大な樹木が現われ、闇のなかで梢を激しく鳴らし、枝葉が狂おしくしなう。その下には改造された小さなバスが必死で大地にしがみつくように停まっている。まるで、私たちの生の姿そのもののようではないか。なんという世界に私たちは生きているのかと慄かずにいられない。緻密に練り上げられていた『Helpless』(青山監督の処女作であり田村キャメラマンとのコラボレーション第1作)とは対照的に、巧みな映像のなかにナイーブな息づかいが潜んでいるようで虚を衝かれた。だからこそ、エンドマークを観ながら想う。映写機から流れ出す光と影の粒子の間に、私はそっと署名する、と。映画の魂を共に生きたと。そんな署名がひそやかな祈りのように、何十万と多彩な言語で書かれてゆくに違いない。『ユリイカ』は言うまでもなく現在の日本における屈指の傑作である。 (成瀬輝美)