アメリカン・ナウ

11月26日 「アメリカン・ナウ」 (やまばとホール)

●Time Table●
10:10−10:20
10:20−13:27
14:00−16:02
16:20−18:34
オープニング
マグノリア
アメリカン・ビューティー
ハピネス

マグノリア
MAGNOLIA
1999年/アメリカ/ニューライン・シネマ、ジョアン・セラー、グラーディ・フィルム・カンパニー製作/日本ヘラルド映画配給/3時間7分
 
監督・脚本=ポール・トーマス・アンダーソン
撮影=ロバート・エルスウィット
音楽=ジョン・ブライオン
美術・衣装デザイン=マーク・ブリッジズ
編集=ディラン・ディチェナー
出演=ジェレミー・ブラックマン、トム・クルーズ、ジュリアン・ムーア、メリンダ・ディロン、フィリップ・シーモア・ホフマン、フィリップ・ベイカー・ホール
 
[ストーリー]
 LA郊外、サン・フェルナンド・バレーのとある一日。この地で、一見何の繋がりもない12人の人々が様々な境遇のなかで生きている。ある者は許しを求め、ある者はそこからの逃避を求め、ある者はほつれてしまった絆を繕い、ある者はつけていた仮面を剥がされる……。しかし彼らは、偶然や巡り合わせなどによって徐々にある一つの方向に向かって繋がり始める。そして彼らが最後に見たものは……。
 
[コメント]
 私は運命というものをとても信じている人種だ。だから偶然も奇跡も巡り合わせもすべて運命という名の元で起こる必然だと思っている。そして人は決して一人では生きていけず、誰かを想い、誰かに支えられ守られ生きている。だからそのことに鈍感で、ひたすら目を覆い沈黙する人間は最低の人間だと断言できる。先日テレビで観た作家・柳美里はそのことに対して身をもって呈していた。それは壮絶なまでの「無償の愛」と「生きるための希望」で私を圧倒したのだ。この主人公のいない12人の群像劇も、最初は網の目のように複雑に組まれた脚本に翻弄されてしまうかもしれないし、観終わった後も頭のなかが真っ白になるかもしれない。しかし彼らは皆、心の奥に広く深い闇を抱えながらもどこかで人の愛を求めている、生きる希望を見出そうとしている。そして偶然や巡り合わせが一枚の布を織りなすように彼らを繋げたり逸らしたりする。それが人生であり運命なのだ……。そのことが後からじわじわと心に染み渡っていく、ボディ・ブローのような映画。それがこの映画の凄さであり、真骨頂だと思う。そんな手強い作品を世に送った監督ポール・トーマス・アンダーソンの存在とこのような人材をまだ輩出するハリウッドの底力を見せつけた今年を代表する一本である。やはり、人の心を開くカギも人の心にある。閉ざされた心に一寸の光が必ず射し込むと信じること。そして静かに待ち続けること。それも運命なのだ……。 (亜)

アメリカン・ビューティー
AMERICAN BEAUTY
1999年/アメリカ/ドリーム・ワークス・ピクチャーズ、コーエン・ジンクス・カンパニー製作/UIP配給/2時間2分
 
監督=サム・メンデス
脚本=アラン・ポール
撮影=コンラット・L・ホール
編集=タリク・アンウォー、クリストファー・グリーンバリー
衣装デザイン=ジュリー・ウェイス
音楽=トーマス・ニューマン
出演=ケビン・スペイシー、アネット・ベニング、ソーラ・バーチ、ミーナ・スバーリ、ウェス・ベントレー、ピーター・ギャラガー
 
[ストーリー]
 レスター・バーナム(K・スペイシー)は42歳。妻キャロリン(A・ベニング)と娘のジェーン(S・バーチ)と3人暮らし。郊外に家を構え、何不自由のない一見幸福そのものの家庭を築いている。しかし、キャロリンは家族への愛情より家族の見かけ上のスタイルにこだわり、ジェーンは怒りと不満で情緒不安定で家族と口を利こうともしない。レスターはある日、ジェーンがチアガールとして出場するバスケットの試合を見に行って、チーム1の美少女アンジェラ(M・スバーリ)に一目ぼれする。妻は妻で不動産王と不倫に走る。ジェーンはそんな両親を軽蔑しつつ、自分のことをビデオで撮影している青年のことが気にかかる。彼は隣に引っ越してきたリッキー(W・ベントレー)という青年らしい。バーナム家に今予測できない事態が起ころうとしていた……。
 
[コメント]
 今年最高のアメリカ映画。(対抗できるのは『マルコビッチの穴』くらい?)その初めて観た時のインパクトといったらそこらへんのフランス映画(今年はホントにひどいものばかりだった)が10本束になってもかなわない。サム・メンデス監督はもともと演出家出身らしいけど、その仕掛けの面白さ(もしくは引き出しの多さ)には唸る瞬間が何度もあったし(特にあのバラのシーン!)、既存にはないようなカット割(前のシーンからアネット・ベニングが銃をぶっぱなす処とか)も斬新だった。が、そんな理屈はともかく、この映画が何より凄いのはストーリーがムチャクチャ面白いことで、こんなに始めから最後まで笑えて、尚かつ考えさせられる話(ただのおとぎ話ではないってことですな)ってあんまりなかったと思う。ま、オスカーを受賞したから観てみるかーという人にはホントに不向きなブラックな笑いに満ちた傑作(キャステイングではクリス・クーパーに注目) (舟)

ハピネス
HAPPINESS
1998年/アメリカ/グッド・マシーン・インターナショナル、グッド・マシーン、キラー・フィルムズ・プロダクション製作/シネカノン配給/2時間14分
 
監督・脚本=トッド・ソロンズ
撮影=マリゼ・アルベルティ
美術=テレーズ・デペレス
音楽=ロビー・コンドール
音楽=アレッシオ・ヴラッド
美術=ジャンニ・シルヴェストリ
編集=アラン・オクスマン
出演=ジェーン・アダムス、フィリップ・シーモア・ホフマン、ディラン・ベイカー、ララ・フリン・ボイル、ベン・ギャサラ、シンシア・スティーブンソン
 
[ストーリー]
 ニュージャージー州郊外、ごく普通の中流階級に育った3姉妹がいる。30歳を過ぎて独身、作曲家志望のジョイ(J・アダムス)は恋人と別れたばかり、姉のヘレン(L・F・ボイル)は美貌の女流作家、もうひとりの姉のトリッシュ(C・スティーブンソン)はセラピストの夫ビル(D・ベイカー)と3人の子どもたちに囲まれ、裕福な暮らしをしている。ジョイは移民向けの英会話学校の教師として働き始めるが、生徒ヴラッドとの関係がまたもやドロ沼に……。ヘレンはスランプによる作家生命の危機を感じ、イタズラ電話の相手に接近するが、それは隣の部屋に住む孤独なサラリーマン、アレン(P・S・ホフマン)だった。一人幸せに見えたトリッシュだったが、夫ビルがついに隠してきた欲望を抑えきれなくなり、ある事件を起こしてしまう。ジョイ、ヘレン、トリッシュの3姉妹に、そして彼女らを取り巻く人々に、本当の<幸せ>はやってくるのだろうか?
 
[コメント]
 ある意味<でたらめ>な映画である。今回上映の他の2本と同様家族(もしくはその周辺)のことを描いているのだが、前の2本は確実に語り口というか言い分があるのに対し、この映画は「まあいいじゃん、結局人生なんて不幸せの集まりよ」とサジを投げている。その(ある意味)投げやり感が痛快だし、魅力的でもある。だからっていい加減な映画なのか?と言われると勿論そんなことは無くて、前作が習作の域を出ていなかったトッド・ソロンズ監督の面目躍如の巧い演出(と言うか彼も大人になったんだろう)が随所でバシバシッと決まっていて、実に巧い映画に仕上がっている。(話はおいといて、ね)まあ、細かいことは観てのお楽しみということで。(ホフマンももちろんチェック!) (舟)