オープニング企画:フォーラム推薦作品

11月18日 「オープニング企画:フォーラム推薦作品」 (やまばとホール)

●Time Table●
11:00−11:15
11:15−13:11

13:50−16:58
17:20−18:52
オープニング
<オープニング特別先行プレビュー(来春公開予定作品)>
風花
グリーンマイル
ナビィの恋

<特別先行プレビュー作品>
風花
2000年/ビーワイルド、テレビ朝日、TOKYO FM製作/シネカノン配給/1時間56分
 
監督=相米慎二
原作=鳴海章
脚本=森らいみ
撮影=町田博
音楽=大友良英 美術=小川富美夫 編集=奥原好幸
出演=小泉今日子、浅野忠信、麻生久美子、尾美としのり、小日向文世、高橋長英、柄本明、香山美子
 
[ストーリー]
 故郷・北海道に残した一人娘に5年振りに会いに行く風俗嬢・ゆり子(小泉)と酔った勢いからドライブに付き合うことになる謹慎中のキャリア官僚・廉司(浅野)。性格も生活も旅の目的もまったく異なる2人の、ぎくしゃくとした旅が始まる……。だが実家に辿り着いたゆり子は、両親の反対から娘に会うことが出来ない。そして廉司の耳には、上司からの一方的な解雇通告が届く。「自分は世の中に必要のない人間なのかもしれない……」行き場をなくした「帰れない2人」を乗せた車は、まだ雪の残る山奥深くへと向かって行く……。
 
[コメント]
 雪のめったに降らない、私の故郷・静岡に降る風花は、雪と違って積もることはなく、地面に触れた途端、雨と同じように水滴となってしまう、さらさらの花びらのような細雪のことだ。それだって降るのは冬の最も寒い日なのに、<風花=寒い>という記憶はなく、その刹那的な美しさと、季節の揺れを感じ、うっとりと眺めていたのを思い出す。さて『風花』であるが、この作品には色ではなく、揺れを感じる。行く場所も帰る場所もなくしてしまった、ゆり子と廉司の間の、閉塞的で乾いた、相容れることのない空気感は、残雪深い北海道の幻想的な美しさを背景にただただその息づかいや揺らぎがこちらに伝わってくるかのようである。江戸川乱歩賞受賞作家・鳴海章の同名長編小説を『セーラー服と機関銃』などのヒット作で知られる名匠・相米慎二監督が映画化したこの作品は、小泉今日子と浅野忠信という、「ありそうでなかった」キャスティングや、その「らしくない」演技に戸惑う暇もなく、すっと奥深くにぎゅっと入り込んでくる。あのはらりはらりと風に舞う「風花」のようにそれ自身にも、観る者にも‘揺れ’を感じさせながら……。そして私たちはただただ眺めるばかりである。 (雅)

グリーンマイル
1999年/アメリカ/キャッスル・ロック・エンタテインメント製作/ギャガ・ヒューマックス共同配給/3時間8分
 
監督・脚本=フランク・ダラボン
撮影=デヴィッド・タッターソル
撮影=トニーノ・デリ・コリ
音楽=トーマス・ニューマン
美術=テレンス・マーシュ
出演=トム・ハンクス、マイケル・クラーク・ダンカン、デヴィッド・モース、ジェームズ・クロムウェル、ダグ・ハッチソン
 
[ストーリー]
 ジョージア州のコールド・マウンテン刑務所で死刑囚官房の看守主任を務めていたポール(T・ハンクス)は、現在いる老人ホームの友人に60年間胸に秘めていた出来事を語り始める。死刑囚が、独房から電気椅子に向うまでの通路は<グリーンマイル>と呼ばれていた。ポールたち看守は、受刑者たちを出来るだけ心安らかに死なせてあげるのが仕事だった。ある日、官房に黒人の大男(M・C・ダンカン)が送り込まれてきた。彼の犯した凶悪な犯罪とはかけ離れて、彼の人柄は温和で、従順で、子供のように暗闇を怖がり、彼の目は深い悲しみに満ちていた。その頃、ポールは尿路感染症の激痛にさいなまれていたが、彼の<手>によりその苦しみが癒されるという、驚くべき体験をする。一体、彼はどんな力をもっているのか? 本当に罪を犯したのか?
 
[コメント]
 これはおとぎばなしです。神様から贈られた<特別な力>を持つ男が登場して奇跡を起こし、人々を救い、そして現世に疲れたその身を救うため、彼は死を選びます。この映画には、目を背けたくなるような現実、殺しても足りないくらい卑劣な人間も容赦なく描かれています。反面、看守と死刑囚との優しく人間的な関係、<特別な力>を持つ男の自己犠牲による救済、夫婦の情愛など、情感たっぷりに描かれています。たくさんのテーマが含まれており、この映画の魅力をその一面だけをとらえて言うことは、とても難しいのです。<グリーンマイル>は生から死へ向かって歩く最後の道のことです。でも、考えてみれば私たちは皆、一日一日生を営みながら死へ向かって歩いているのではないでしょうか。そのなかでいろんな人と出逢い、別れ、いろんな経験をします。時には罪を犯すこともあるでしょう。その償いはきっと行わなければならないのです。心安らかな死を迎えるために。でもご安心ください。この映画にはそんな押し付けがましい教訓めいたところはありません。本当に心に残るファンタジーです。 (明)

ナビィの恋
1999年/イエス・ビジョンズ、オフィス・シロウズ製作/オフィス・シロウズ、東京テアトル、メディア・ボックス配給/1時間32分
 
監督・脚本=中江裕司
脚本=中江素子
撮影=高間賢治
音楽=磯田健一郎
美術=真喜屋力
編集=宮島竜治
出演=西田尚美、村上淳、平良とみ、登川誠仁、平良進、アシュレイ・マックアイザック
 
[ストーリー]
 恵達(登川)は愛する妻ナビィ(平良とみ)と粟国島で穏やかな日々を過ごしていた。ある日、東京で働いていた孫の奈々子(西田)が帰郷する。奈々子が帰郷した頃からだろうか、ナビィの様子がどうもおかしい。どうやら隠れてどこかへ出かけているようだ。しばらくして理由が判明する。奈々子と同じ頃、ナビィの初恋の相手、サンラー(平良進)も粟国島に帰郷していたのだ。恵達とサンラー、2人の男の間で揺れ動くナビィを、恵達は黙って見守るが……。
 
[コメント]
 『ナビィの恋』の出演者でMVPを決めるとしたら、誰を選ぶだろうか? 西田尚美の飾らないまっすぐな演技も捨て難いが、僕が選ぶのはやはり、今回が初めての演技だったという恵達こと登川誠仁氏だ。氏は沖縄民謡の大御所で、カチャーシー(三線の早弾き)の名手であり、自らが開く流派、登川流の宗家(親分)である。沖縄県からは無形文化財技能保持者の称号を受け、一部の人からは「沖縄のジミヘン」と呼ばれているらしい(次回作があったら入れ歯で三線を弾いて、そのことをぜひ証明していただきたい)。また僕の仲間内で「おじいちゃんになって欲しい人ナンバー1」に選ばれ親しまれている。氏の演技は一見すると、ものすごくぎこちなく感じるが、次第にそのぎこちなさのなかに余裕のようなものを感じ取ることができる。そして観終わった後、「もしかして、あのぎこちなさは全部演技だったのではないか?」と疑ってしまう。それほど摩訶不思議で、強烈な存在感を放っているのだ。うまく説明できないが、観れば多分わかっていただけると思う。話は変わって、まばゆい太陽の光、きれいな空と海、穏やかな人々の心、ゆっくりと流れる時間、心地良い琉球音楽。観終わった後は、誰もが沖縄に行きたくなる。沖縄プロモーションビデオの決定版(!?)『ナビィの恋』。是非、御鑑賞下さい。 (哲)