ある中等学校で、生徒らがパフォーマンスを競う“タレンタイム”が開催される。オーディションで決勝に選ばれたムルー(パメラ)と、リハーサルのために彼女を送迎することとなったマヘシュ(マヘシュ)は、互いに理解を深め惹かれあうが……。多民族国家マレーシアで生きる若者たちの想いが音楽となって溢れだす。
複数の生徒とその家族を描くことで、多くの言語・宗教などが併存するマレーシア社会の緊張感や葛藤を伝える一方、ところどころに個性的な登場人物のユーモアに富んだ言葉やしぐさなどが散りばめられていて興味深い。そして、それらをはじめとした仕掛けによって、多民族社会で現実や常識とされていることを軽やかに超えていく作法が提示される。
「マレーシア映画新潮」の代表的存在として知られるヤスミン・アフマド監督の遺作となった本作は日本でもたびたび上映され、多くの観客を魅了した。海を越えて受け容れられたのは、人と人が関わり、向き合うことについての普遍的なメッセージが作品に込められているからだ。もう新作を観ることはかなわないが、世界のひとりでも多くの人びとがヤスミン監督の作品と出会うことを願う。(渉)
東京下町の一角にある印刷所。バツイチの夫と、若い妻と、前妻の娘と、出戻りの妹の4人暮らし。最近の事件と言えば、娘の買っているインコが逃げ出したことぐらいの一見平和にみえる家族に、闖入者「加川(古舘)」がやってくる。髭モジャ、慇懃無礼な加川は、飄々と一家の内部に入り込み、仮そめの平和をかき乱していく。
2010年7月25日、例年にない猛暑のなか、ヤスミン・アフマド監督一周忌のシンポジウムが立教大学で開かれた。ちょうどその週に、『歓待』が東京墨田区で撮影中だったことを後になって知った。8日間で撮影された『歓待』はその秋の東京国際映画祭で作品賞を取り、それからオランダ、アメリカ、中国と数々の映画祭に招待され、1年を通して1万人以上の外国人が鑑賞したと聞いた。
さまざまな人を惹き付けるこの作品の魅力は、不穏な家族関係や、機能していない地域コミュニティや、他者に対する日本人の排他性などを、異質な闖入者がユーモアを通して暴露していることにあるかもしれないし、もしかすると私たち自身も意識の壁をつくり、誰かにあるいは自分に、何かの役割を押しつけている可能性を鏡のように見せられるからかもしれない。
深田監督の機知的爆弾は、閉塞する日本社会に向けられると同時に海外へも伝わり、多くの偏見や価値観の押しつけの壁を巧妙に壊したに違いない。そしてカタストロフィの後、その残骸の中で、終盤にアナベルが歌う五カ国語の歌が私たちの心に響くときには、今年6月にある作家がカタルーニャでスピーチしたように、国境や文化を超えて開かれた精神のコミュニティを形作ることも不可能ではないかもしれない。(半)
1980年生まれ、東京都出身。大学在学中に映画美学校に入学し、2004年までに長短編3本を自主制作する。05年、平田オリザ主宰の劇団青年団に演出部として入団。06年、異色作『ざくろ屋敷』を発表し注目を集める。09年発表の『東京人間喜劇』がローマ、パリの国際映画祭で正式招待され、大阪シネドライヴ2010大賞を受賞。10年『歓待』が東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門の作品賞を受賞した。
1984年広島県出身。慶應大学在学中にソウルに留学。2006年韓国映画『まぶしい一日』“宝島”編主演で映画デビューし、『絶対の愛』(キム・ギドク監督)にも出演。2008年『クリアネス』(篠原哲雄監督)で日本映画初主演。2010年に本作のほか、『マジック&ロス』(リム・カーワイ監督)、『避けられる事』(エドモンド・ヨウ監督)の三作品を主演兼プロデュース。2011年東京国際映画祭では杉野希妃特集が組まれた。
1960年生まれ、東京都出身。早稲田大学大学院で映画学を専攻。国際交流基金勤務を経て、2007年より東京国際映画祭「アジアの風」プログラミング・ディレクターを務める。本年4月に開学した日本映画大学教授を兼職。主著に「ドキュメンタリーの海へ 記録映画作家・土本典昭との対話」(現代書館)など。