ジョージVI世(C・ファース)は、幼少期から吃音に悩まされていた。各種の治療を試みたが、思わしい成果が得られなかった。王妃エリザベス(H・B=カーター)は、治療のため言語聴覚士ライオネル・ローグ(J・ラッシュ)を訪ねる。彼の治療法は独特なもので、いつもジョージとローグとの葛藤が繰り返されるのであったが……。
この映画は、ライオネル・ローグの独特な治療法の話をもとに脚本が書かれ、30年以上前に映画や演劇として企画されたことがあった。しかし、王妃エリザベスの生存中には公にしたくないと許可が得られず、見送りとなった経緯があった。
この作品は、ドキュメンタリーではないが、実話にもとづいて製作されたもので、とくに主人公の立場を考えると、人間の苦悩が偲ばれることと、社会的地位を越えて人間としての信頼関係の大切さを知らされる人間ドラマの展開が見どころである。
主役のコリンとヘレナは、この作品について、人生を左右するような人間の出会いには想像もできない不思議なものがあり、王と言語聴覚士の出会いは、2人の人生はもちろん英国の命運も変えていたかも知れない、と思わせるほどドラマチックな感動と面白さにあると述べている。また第2次世界大戦勃発の時代を垣間見ることができたのも興味深いものである。(松)
スペインのバルセロナ、街には不法移民があふれ、人々は生きる糧を求めて危険な仕事に手を出す。その貧しい地域に住むウスバル(H・バルデム)も、子どもたちとの生活のために、危険で不安定な仕事に手を染める。底辺の暮らしから抜け出すことができない不安の中、ウスバルは体に異変を感じる……。
アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督が、長年温めてきた企画が今作『ビューティフル』です。映画を観た後の印象としては、前作の『バベル』に比べて表現がシンプルでストレートになっているように感じます。イニャリトゥ監督は、映画の構成や表現に非常に凝るほうですが、今回はその華麗な語りの部分を抑制しています。「どう語るか」ではなく「何を語るか」に関心が向き始めているのではないでしょうか。今作はすべての人間に不可避的に訪れる「死」が主旋律となっています。「死」を前にして嘆き悲しむのでなく、運命を受け入れることで濃密な時間を生きるというのは、監督がオマージュを捧げる黒澤明監督の『生きる』の主題と共鳴しているようです。子どもたちへの愛情も、夫婦の愛情の行き違いも、貧困も、そして死も。主人公が体験したことは、人生にとってはすべてが大切な要素なのかもしれない。この映画はそんな感想を抱かせる、骨太な人間賛歌を描いています。(彰)